今、日本が直面している課題である生産人口の減少、高齢化、環境問題などの社会問題に、リフォームが与える影響は非常に大きいと注目されている。
キーワード=「健康」
高齢者の「病気」が社会を圧迫する
日本の高齢化率は、現時点で約25%。4人に1人が高齢者という社会だ。この傾向は今後も加速し、2060年には高齢化率は40%に到達する勢いだ。
こうした社会で危惧されているのが医療費の増大だ。この10年で医療費は急激に増加し、国民総所得に占める割合は12%に迫る。
図1 財政を圧迫する国民医療費の推移
図のように医療費は年々増加傾向にあり、国家財政を圧迫している。世界でもまれな国民皆保険制度が崩壊する危機が言われる中、1人ひとりが健康になり、医療費を減らすための方策がさまざま行われているが、甚だしい効果は出ていない。
医療費率の45.4%が70歳以上
2013年9月発表の医療費概況では、2012年の医療費は前年比1・7%増の38兆4000億円。70歳以上の医療費率が45・4%になった。
国民皆保険は、世界的に見ても優れた制度といえるが、このままではこれも崩壊の危機にある。今後介護保険の負担も、間違いなく増大が見込まれ、財政を強く圧迫すると考えられている。
高齢者1人ひとりの健康を保つ方策は、財政の健全化に直結するといえる。すなわち住宅の性能を向上させるリフォームは、高齢者の健康を向上させ、弱体化する一方の日本の社会を、変えるパワーがある。
図2 家庭内の不慮の事故死(平成22年度)
総数1万4249人の死者のうち、80%の1万1429人を65歳以上の高齢者が占める。中でも溺死は、平成15年頃から上昇が著しく、20年に当時1位だった窒息を抜いて死因の1位になった。ヒートショック自体を死因とする統計はまだ取られたことがないが、東京監察医務院によると、ヒートショックが間接的な原因となる入浴中の「脳血管疾患」まで入れると、溺死と合わせて推計年間1万4000人の死者が出ているとも言われている。
ヒートショック死者は年間1万4千人
性能を向上させる住宅リフォームは、頻発している高齢者の家庭内事故を防ぐのに非常に有効だ。
中高年者の家庭内事故死の、大きな要因となっている1つが、「ヒートショック」。
築25年、30年といった住宅では、居室に比べて廊下や脱衣所、浴室の温度が低いことが圧倒的に多い。入浴時に居室から脱衣所、浴室と移動し、浴槽につかる、という動き
の中で、最大で体温は10度、血圧は90も乱高することになり、それも温度差があるほど、室内が寒いほど、急激になる。
このため、心筋梗塞、脳梗塞などの心血管障害、急激な血圧乱高下による意識障害などを起こし、昏倒やケガ、溺死に至る事故が多発している。
浴室での溺死は、家庭内の不慮の事故死で最も多く、また11~3月の冬期に目立って多くなっている(図2、3)。
ヒートショックが間接的原因となる、脳血管疾患と溺死は、合わせて年間1万4000人に上るという。ヒートショックによる事故死を防ぐには、居室から入浴までの温度を一定に保つ「断熱」「気密」リフォームが、非常に有効な手立てといえる。
図3 不慮の事故死の月別死亡率
不慮の溺死は浴室内事故と見られ、10~3月の冬期に激増している。低い数字に落ち着くのは6月の初夏だ。
―――続

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