TOTO(福岡県北九州市)は、システムキッチン「THE CRASSO(ザ・クラッソ)」の「クリスタルカウンター」に新色2色を追加して8月に発売した。新色の「ラールブル」は、夜が明ける直前に青く染まる空模様を表現。豊かで繊細なグラデーションがキッチン空間を心躍る場所に彩る。そんな「ザ・クラッソ」のカタログは、広告を中心に幅広く活躍しカンロ「ピュレグミ」のパッケージデザイン等にも携わった松崎賢氏がアートディレクターを担当。「ザ・クラッソ」の魅力やカタログ制作の裏側について話を聞いた。
新柄ラールブル
1日で様々な表情を見せる「ラールブル」の魅力を引き出す
現在の「ザ・クラッソ」の前のシリーズである「クラッソ」が発売されたのが今から14年前の2010年のこと。その時にロゴデザインに携わったのが松崎賢氏だった。
「ロゴを仕上げていくお手伝いをしました。当時はキッチンをがらりと変えるタイミングで、ロゴのデザインはとても重要です。おしゃれなキッチンが登場するイメージで作りました」と当時を振り返る。
松崎氏がロゴ制作を手がけてから10年が経過し、2020年より改めて「ザ・クラッソ」のカタログ制作にアートディレクターとして参画することになった。24年発売の新商品の見学に訪れた千葉県にあるTOTOハイリビング茂原工場で高揚感を覚えたと言う。3段ほどの階段を上がったところに設置されていた新商品の「ザ・クラッソ」。松崎氏は「階段を1段ずつ上がり、カウンターが徐々に見えてきた時の高揚感を今でもはっきりと覚えています。その感動を表紙に閉じ込めたいと思いました」と話す。
新色の「ラールブル」は、様々な色が混ざっている点が特長。通常、色が多いとまとまりがつきにくい。ただ、この新商品は違った。蛍光灯やスマホのライトなど、いろいろな光を当ててみると、カウンターの表情が変わる。松崎氏は「朝昼晩と1日のうちで表情を変えていく魅力的なキッチンになる。「ザ・クラッソ」の魅力がカウンターに凝縮されていると感じた」という。
「ザ・クラッソ」のメインターゲットは50代~60代だが、今回は幅広い層の目も惹きたいとTOTOより要望を聞いていた。そして、企画、会議を繰り返しカタログの表紙コンセプトの「こだわりのある人のお宅拝見」に辿り着いた。松崎氏は「ターゲットの年代くらいになると高級なインテリアや服で着飾ることよりも、自分の力でコントロールできない現象部分に美しさを感じたり、ときめいたりするのではないか」といったコンセプトでプロジェクトを進めていった。
こうした感覚は、「カウンターの表情が変わる様子、空や雲の移り変わりの美しさとリンクすると考えました」と松崎氏は話す。「最近空模様に感動してよく撮影する」という、スタッフとの何気ない会話がヒントになり空に着目した。空が大きく見えて、空と一緒に暮らしていくような空間をカタログに落とし込みたく、表紙は大きな窓を開けて、奥の壁に空を感じるようなデザインを採用した。
笑顔に溢れたリアルな家族を演出
そして、松崎氏がカタログ全体のイメージとして重要視したキーワードが「笑顔」だ。以前松崎氏が個人的にTOTOのショールームを何度か訪れた際、そこには未来を想像した来場者の笑顔が溢れていたという。
「あたらしくキッチンを検討されている人は、どんな空間にどんな動線を作るとか、さまざまな考えをめぐらし、未来の生活をイメージすると思います。私自身、その空間に『未来の自分たちの笑顔が浮かぶかどうか』。そのことがプランを決めていく時の大きな軸になっていると気づきました」
実際にショールームを訪れた経験から「笑顔」が表現のフレームとして機能するよう意識してカタログデザインを進めていった。撮影は、空間やプロダクトに専門性をもつカメラマンではなく、人物やその周りの空気を魅力的に写せる水島大介氏に依頼。人の魅力を上手に引き出す写真がキッチンの魅力を伝えることにつながっていく。声が聞こえ料理の音や匂いなどが伝わる。そのようなビジュアルを目指した。
「撮影現場は登場するモデルの方たちが本当の家族のようになってくれるように、楽屋裏では私も積極的にトークに参加していました。実際の家族なら、自然にどんな会話や行動をするのか。できるだけ嘘のない空間作りを心がけました。モデルさんの笑顔は作り笑いではなく、家族となり素敵なキッチンの周りで過ごすことで自然と出てきた笑顔です」
扉に映り込む光景も1つのキャンバス
自然な表現をするために、写真のアングルにもこだわった。通常、キッチンを広く美しく見せるには斜めから広角レンズを使ってできるだけ広く大きく見えるように撮影する。しかし、松崎氏は正面からのアングルを選択し、堂々とした「ザ・クラッソ」の佇まいを強調した。また、レンズや焦点距離にもこだわった。
扉が反射する色味
「カタログを見た後に実物のキッチン空間と対面し、『実際は思ったより広くない』と感じるのは少し残念ですよね。できるだけ目で見た印象に近くなるよう、レンズ選びもカメラマンと相談して決めました」
苦労したのはキッチンの扉だ。扉が鏡のように反射して、撮影現場周辺の物が予期せず写り込んでしまう。しかし、松崎氏は「逆にそこがこの扉の強み。そこにもう一つ表現できるキャンパスができました」と前向きに捉えた。表紙写真を一見しただけでは分かりにくいが、扉に映り込んだものをよく見るとカメラに本来は映らないはずの空間が広がる。
松崎氏は「私はデザインする際、必ず感動ポイントを見つけることを心がけてきました」と重要視するポイントを話す。今回は茂原工場で「クリスタルカウンター」を最初に目にしたときの高揚感、ショールームで未来を想像したお客様の笑顔などが感動を作るためのキーワードになった。ただ、開発者の想いとずれていてはその感動は伝わらないとも考える。様々な役割を担う制作スタッフと確認を取りながらのプロジェクトを推進し、感動の伝え方をチューニングしていったという。
「長い年月をかけて完成した商品をお披露目する大切な仕事を担わせてもらいました。モデルさんの自然な笑顔、空間を彩る様々な色、そして「ザ・クラッソ」との幸せな未来のイメージを表現できたのではないかと思っています」
紆余曲折ありながら、完成したカタログに携わった制作チームは、空間設計士、コピーライター、プロップや料理やお花、そして洋服のスタイリスト、モデルのヘアメイクなど総勢約30人。最終的に1枚1枚のカットに携わった人々の想いとこだわりを入れた1冊のカタログが完成した。
松崎氏の想いの詰まった「ザ・クラッソ」のカタログを手にするときっと笑顔になるに違いない。「クリスタルカウンター」の色には今回、「ラールブル」の他「クリスタルダルグレー」 の計2色を追加。是非ショールームで高揚感を感じて欲しい。
Suguru Matsuzaki
松崎氏がデザインする、カンロ「ピュレグミ」パッケージ
お客様相談室 0120-03-1010
1917年創立。「水まわりを中心とした豊かで快適な生活文化の創造」という理念のもと、水まわり住宅総合機器メーカーとして新しい商品を生み出し続けてきた100年企業です。 システムキッチン、浴室、洗面化粧台、レストルーム(トイレ)など、さまざまな商品で暮らしを豊かに彩ります。
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