職人の減少に「待った」。職人不足が叫ばれて久しいなか、待遇改善や育成に取り組む建設会社やリフォーム会社が増えてきている。2023年、まさに「職人育成時代」が到来したといえそうだ。
職人育成の輪、企業間で広がる
国によれば、2020年時点で建設やリフォーム業に従事する大工の数は30万人弱で、過去20年間で半減した。賃金水準などの待遇改善が進まず、若い世代が減り、高齢化が一段と進んでいることが背景にある。「人手不足に歯止めがかからない」と、ある大手ビルダーの社長は嘆く。こうした事態を少しでも緩和しようと、ハウスメーカーやリフォーム会社、建材メーカーなどは、自社で雇用し、育成に乗り出している。
積水ハウスグループ(大阪府大阪市)の積水ハウス建設は、職人の採用を今後2年間で3倍超に増やす方針を発表した。2024年4月入社では今期の2.4倍にあたる95人、2025年4月入社では3.4倍にあたる133人の採用を計画する。
積水ハウス建設ではアパレルショップのビームスと組んで職人が着用するユニフォームを制作。イメージアップとES向上を図る
そのために待遇改善に取り組む。まずは2023年4月から初任給を月収・年収ベースで最大11%アップ。さらに30代の年収も現在の500万~600万円から最大で約1.8倍となる約900万円に大幅に上昇させる。
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会議棟 607会議室
育成制度にも手を加える。従来の「施工技能者」という一律の呼称を改め、「ホープ」「クラフター」「チーフクラフター」「マスタークラフター」という4つの職務等級を用意する。技術の習熟度をタテ軸に、技術の多様さをヨコ軸で示す「スキル・マトリックス」による新たな評価制度を導入。全国3カ所の教育訓練センター・訓練校で教育する。
給湯器に強いリフォームEC会社キンライサー(東京都港区・年商76億円)も、約40人の自社職人を2年後に150人に拡大させる方針を打ち出す。そのために自社倉庫の一部を改装し、約50平米のトレーニングセンターを開設した。同社に入社した職人は約半年間、同施設内での実技研修と施主宅でのOJTを繰り返してスキルを身に付ける。「会社の規模拡大に伴い、ご依頼いただく案件数を工事するためには、施工職の確保や強化、育成は必須です」(事業本部トレーニング部・手嶋由美子部長)
同社も今年に入り工事スタッフの給与水準を17~38%アップさせた。例えば入社2年目以降の施工技術・接客品質が高い工事スタッフは32.5万円から45万円に上がった。
キンライサー 事業本部トレーニング部
手嶋由美子 部長
中小も例外ではない。約50人の職人を雇用する郡山塗装(福島県郡山市・年商40億円)も、自社の近くに研修センター「KPUトレーニングアカデミー」を設立した。鉄塔を解体する際に貰い受けて、それを敷地内に組み立てるなどして訓練を行っている。「かつては親方についていっては、怒られて嫌になってやめてしまう社員が多かった。研修を社内で定期的に行う仕組みを作り、離職を防ぎたい」と佐藤隆社長は話す。
郡山塗装の研修センター。足場、養生の仕方などを事前に学ぶことで、安心感を得て現場に臨んでもらう
建材メーカーも職人の育成に挑む。タカラスタンダード(大阪府大阪市)は、同社商品の施工を手掛ける職人の育成施設を東大阪市に新設。システムキッチン・ホーローパネルの組み立てを実体験できるコースなど、全17コースの講習を6月5日より開始した。
同社では高いプロ意識を持ってもらうため、認定工事店の施工士を「エンジニア」と呼称する。「今後さらに拡大が見込まれるリフォーム需要への対応に必要不可欠な施工力増強を促進するため」と、施設の目的を説明している。
郡山塗装
佐藤隆 社長
国内外に育成学校がオープン、インドで学び日本で就職も
自社職人の育成だけではなく、他社で働いてもらうことを前提とする職人育成の学校も続々と開校している。
スタートアップ企業のアイティップス(愛知県名古屋市)は、インド中部のベンガル―ルに育成施設を開校した。日本人のプロが講師となり、インド人の職人を育成する。

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