木造住宅の耐震化を推進し、組合員1100社を超える団体、日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協、東京都新宿区)はこのほど、東京国際フォーラムで「2015年度第17回全国大会」を開催。全国から450人超が参加した。
大会の冒頭で、小野秀男理事長が登壇。「木耐協は20年前の阪神・淡路大震災をきっかけに発足し、『地震が起こったことで家族が死なない家づくり』を標榜して活動している。神戸で開かれた大震災追悼集会に参加したが、あの日の惨状は昨日のことのように脳裏に浮かぶ。20年を振り返り、日本の防災対策はどうであったか。私たちにできることはまだまだたくさんある」と強調。
その上で「木耐協は国交省の住宅リフォーム事業者団体登録制度の登録団体を目指し、今春に申請する準備をしている。この国の防災対策は国の応援や施主の理解も必要だが、最も大切なのは、木造建築事業者がしっかり勉強してお客様に提案することだと痛感している。耐震性、耐久性向上リフォームを推進し、この国の防災に共に取り組んでいきましょう」と挨拶した。
今回は2人の大学教授が講演を行った。まず明治大学理工学部建築学科の園田眞理子教授が高齢社会に求められる住まいの視点について解説。続いて群馬大学大学院の片田敏孝教授が、東日本大震災時に岩手県釜石市内の小中学生のほぼ全員が津波の被害を逃れた「釜石の奇跡」と防災教育について講演した。
命を守る主体性を育てる
(群馬大学大学院理工学府 片田敏孝教授)
岩手県釜石市では、東日本大震災の津波で大きな被害を受けましたが、市内の小中学校の児童・生徒はほぼ全員が避難して無事でした。多くの人はこれを「奇跡」と呼びますが、そうではありません。防災教育で子供たちが身につけた対応力が「想定外」を乗り越えさせたと思います。
三陸地方には100年程度の周期で津波が襲来しています。直近では明治29年の明治三陸大津波があります。再び津波が来ることは間違いないが、住民の意識は低かった。そこで子供への防災教育を考え、学校の先生たちと共に取り組みました。
震災の日、釜石市の鵜住居(うのすまい)地区には16メートルの津波が襲いました。この地区には中学と小学校が隣接。地割れが走ったとき、危険を感じた中学生が「津波が来る。逃げるぞ」と声を張り上げながら避難を始めた。日ごろの訓練通り中学生が小学生の手を引きながら、高台まで走って命を守り抜いた。
私が津波防災教育で大切にしていることは、「先人の思いを伝えること」。この地区は太古から津波が襲来し、そのたびに多くの犠牲者が出ました。先人たちはその教訓を残そうと石碑を建てた。石碑を中学生とともに巡り、「悲劇は繰り返さないで」という先人の思いを考えました。後に中学生は石碑の清掃活動や小学校との合同避難訓練を始めた。子供たちは先人の思いを受け止め、震災時にも「最善を尽くす」という思いで避難してくれました。
三陸には「津波てんでんこ」、つまり各自てんでんばらばらにすぐ逃げるという教訓があります。そんなことはできないと言う人もいるが、私は"てんでんこできるように準備しておく"ことが大切だと考えます。事前に親子で話し合い、各自で逃げることを確認しておくことが大切。
命を守る主体性を育て、全員で地域をつくる。防災教育を通して地域全体が変わっていくことに、私は防災の可能性を感じています。
トータルな住生活総合産業を
(明治大学理工学部建築学科 園田眞理子教授)
日本では今、「静かな革命」が起きています。日本の総人口と世帯数の劇的な変化です。人口は2010年ごろから急激に減少し始め、世帯数は2019年をピークに減少し始めると予測されています。これは世界でも類の無い状況です。
その状況で住宅需要はどこにあるか。今後増加するのは高齢者人口です。高齢期は「人生の実りの秋」であり、家での暮らしが中心。つまり人生後半の住宅需要が新たなマーケットです。
高齢者をターゲットに医療や介護などを含めたトータルな「住生活総合産業」が求められています。新しい街の開発ではなく、今ある街の中でみんなが安心して生活できることが大切。「90歳になっても安心して住める街」は高齢者にも若い人にも魅力があり、新しい価値の創造になります。
従来の住宅産業は住み手に合わせて家をつくる「かたつむり型」でした。かたつむり対応ビジネスは「ストック改善」。今の家に老後も住み続けたい人、コンパクトに建て替えたい人、二世帯住宅にしたい人など様々で、そこには耐震、バリアフリー、省エネ改修の膨大な需要が眠っています。団塊世代のシニア層には自己投資、未来投資をキーワードにしたアプローチが効果的。
一方の「やどかり型」は住み替えタイプ。やどかり対応ビジネスは、魅力的な住み替え先が提供できる流通ビジネスが鍵です。
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