坪井利三郎商店 坪井進悟社長
創業110年を超えた老舗屋根工事会社の坪井利三郎商店(愛知県名古屋市)がリフォームを1つの柱とした新たなビジネスモデルを確立しつつある。リフォーム単体売り上げは全体56億円の約2割にあたる11億円となり、今期は15億2000万円への飛躍を目指す。有力屋根工事事業者団体の日本屋根外装工事協会の会長も務める坪井進悟社長に、今後の展望や戦略などを聞いた。
7つの免許取得
――――売り上げが50億円を突破し、リフォームも順調に推移しているようですね。
全体数字はより上の時がありましたが、今世紀に入って現在が一番ビジネスモデルが確立されつつあると思います。実は、一級建築士事務所、造園業、電気工事など7つの免許を取り、事業枠を広げました。昔は屋根工事業だけでしたが。
――――では屋根以外の工事に事業が拡大しているのですね。
そういう意味ではのびしろがあります。当社は112年の歴史がありますので、今までのチャネルだけで「屋根屋さんだと思っていたのに、こんなこともできるのですか」と広がりをもてる。信用と紹介でキチンとした工事をすると今の倍はやれると思っています。
――――それはBtoB工事が伸びるということでしょうか。
いや、基本的にはBtoC工事を伸ばすのですが、そのノウハウがあれば、BtoBもかなり力が付けられると思っています。例えば寺社仏閣リフォーム事業の「永代普請」。大都市では、建て替えるとなると消防法の関係で鉄筋でないと難しい。それを耐震診断し、補強しながら行うのは新築よりも難しいのですが、宮大工を抱えているので工事できるわけです。
その技術で住宅メーカーでもなかなかやりたがらない古民家改修とかを私どもに一括でもらえる可能性があります。
――――お寺の工事も多いのですか。
お寺は京都や奈良が一番多いと思うじゃないですか。実は愛知県がNo.1で5千数百カ所あるのです。そんなお寺さんで「なんだ坪井さんところ屋根以外もやるんだ」と知っていただけると、水まわりとか電気、太陽光とかいろいろな工事が入ってくる。これは信用があるからで、よそでは参入は難しいと思います。
――――BtoC向けの直接のPRもあるのですか。
日本屋根外装工事協会で屋根外装の点検・診断・相談から施工・アフターまで行うケアドクター制度というものを作って、電話1本おいていますが、なかなか反響が来ていません。
ただ、我々の業界の人たちは古くから事業をしていて、お寺の相談役や町内会長をしている人が多いのですね。そうするとそこから自然に広がります。
31人の社員職人
――――自社で職人を抱えている点も信用される1つではないですか。
今、建設業で社員職人を20人以上抱えているところはほとんどないですよ。私どもは今31人の社員職人、関連会社で専属職人が240人いるんです。例えば震災の日でも夜中に電話をもらえれば朝には100人ぐらいなんとかなる。こんな会社、日本中探してもないです。社員職には今、多能工化に持っていこうかと考えているところです。
新しいドメイン(領域)を
――――日本屋根外装工事協会の会長の立場として、新築依存型が多かった屋根事業者が生き残るためには、これからどんな方策が必要でしょう。
旧来型のビジネスモデルはプラスアルファしないといけない。経営者は新しいドメイン(領域)のことを常に考え続けないといけません。ただ、屋根屋さんはお金持ちが多く、借家などの不労所得で食べれてしまう人も結構います。だから危機感がない。
そこで後継者がいる人に話をし、反応する人と一緒にいろんなことを取り組もうとしています。つながりは強いので、チームとして全国展開は簡単にできると思います。
――――御社のように、工事の範囲を広げていくのですね。
ただ、窓口は地域の老舗の屋根屋のままがいいですよ。リフォームショップにしてしまうとライバルがとても多いですから。瓦屋は和風のイメージがあります。そのイメージは文化の香りがするし、どっしり構えてやっていけばチャネルはいくらでも広がりますから、そこを重視しようといっています。
次世代に向けては、昨年仙台で「東日本復興と故郷のまちづくり」というタイトルでシンポジウムを開催しました。そこで瓦の街並みが非常に観光資源になるという話に相馬市長が反応しまして、70戸の復興住宅を全部瓦で葺くことになり、ここなら住みたいと思える街になった。文化的な話をすると日本人の心が動くのです。
――――現在の町は統一感がないところが多いです。街並みを整えることが将来の活性化、リフォーム需要の創出につながると感じます。
明治維新の時に日本に来た外国人は、こんな美しい国はない、屋根がすごいと言ったのです。新幹線に乗って山側の集落を見ると、同じような方向で建てられ、屋根の角度も一緒、そこにはお寺があり、一番奥に鎮魂の森がある。
これが日本の美しい景色ですよ。ここになら帰ってきて住んでみたいと思う。でも一気に変えられないのでまずは門前町。そこをちょっと整えると人が来ると思いますよ。

所在地 * 愛知県名古屋市 / 創業 * 明治35年7月
資本金 * 1300万円 / 従業員数 * 80人

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