慶應義塾大学 伊香賀俊治 教授
断熱改修前と後では、居住者の健康にどのような変化があるのか―――。1800軒を超える一般住宅を対象に、断熱化の効果を明らかにする異例の研究が国土交通省主導で進められている。「スマートウェルネス住宅等推進事業」というもので、2014年からスタート。今年1月の中間報告では、断熱化による室温の上昇が健康に好影響を与えるという報告がなされており、効果が「見える化」され始めている。検証委員会の委員を務める慶應義塾大学・伊香賀俊治教授に断熱化と健康の関係性について聞いた。
血圧低下策に断熱化も有効
――対象となる住宅を断熱改修し、居住者の血圧や活動量が以前とどう違うか比較調査しています。どのようなことが分かってきましたか。
改修前後の調査はまだ165人のサンプルなのですが、健康に良い影響があることが分かってきました。全サンプル平均では改修後に2.7℃温度が上昇し、血圧は1.0mmHg低下。中には10度上がった家もある。室温が上昇したサンプルは144人で、こちらだけだと平均して3.3度上昇し、血圧は1.4mmHg低下。しかし一方で21人は平均1.6℃低下し、1.5mmHg血圧が上がったケースも見られました。
――室温が上がると血圧が下がる。つまり健康に良い影響があると。断熱改修のメリットが証明されてきました。
「健康日本21」という厚生労働大臣告示では、2022年までに収縮血圧平均値の4mmHg低下を目標に掲げています。これで循環器疾患死亡者数が1万5000人減少するとの推計もある。
そこでは血圧を下げるには食生活や運動などが大事だとされているのですが、住環境の断熱化は含まれていません。それはやはり医学的なエビデンス(証拠)というものが不足しているからなんですね。
溺死リスク増の知られざる要因
――伊香賀教授は以前から室温と健康リスクの関係について研究されてきていますが、その中の一つに入浴事故との関連性についての研究がありますね。
浴槽での溺死者は10年で7割増加しています。2014年に4866人いて、そのうち65歳以上が9割。実は交通事故より多いんです。あまりにも減らないので、消費者庁は16年の1月には、湯温41℃以下で入浴10分未満で浴槽からあがることを推奨するニュースリリースまで出しています。
最近の調査では2759人のサンプルで分析しました。その結果、居間や脱衣所の平均室温が18℃未満の住宅では、入浴事故のリスクが高まる42℃以上の熱めの入浴、15分以上の長めの入浴をする人が多いことが分かりました。室温18℃以上の家と比べると1.8倍確率が高い。
――つまり、家が寒いと熱い風呂に長く浸かりたくなる。しかしそれは危険行為だと。

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