安藤嘉助商店 安藤辰社長
目指すテーマは「住み継ぐ街づくり」
創業132年―――
地域に根ざした事業展開を続けてきた安藤嘉助商店(岡山県倉敷市・屋号カスケホーム)。リフォーム事業を中心に現在、売り上げは10億円を超える。ただ、工務店の下請けからの脱却を図った2005年から07年は同社の暗黒の時代。賃金格差や従業員の不和などの問題を抱え、売上高も低迷した。安藤辰社長に同社復活の軌跡と今後の戦略を聞いた。
下請けからの脱却
――今から10年ほど前、下請け企業からの脱却を図る際、いろいろな問題が発生したそうですね。
当時は歩合制など試行錯誤していた時期でした。とにかくよく分からなかったので、固定給も30万円ほどにして売り上げゼロでもやっていける給料だったのです。かつ歩合と賞与。営業は20何歳の子でも年収700万円ほどありました。工務など営業以外は気持ちよくなかったと思います。
――変革のきっかけは。
僕が楽しくなかったのです。お金の話ばかりになって、これは楽しくないと。社内の雰囲気も表面上はいいのですが、僕が知らないところでは派閥や、好き嫌いがあったようです。
――当時の人員数は。
17、18人ぐらいですね。売り上げは5億円ぐらい。今の半分弱でした。
――具体的な変革の中身を教えてください。
まずは給与制度を固定に変えました。すると1年以内に3、4人いなくなりましたね。お金のつながりだったのだと思います。そして新卒採用を始めました。最初は2人。毎年2、3人ぐらいずつ採用を続けています。
――新卒採用を始めたとなると、教育制度などの整備も必要になりますね。
まっとうな話ですが、ちゃんと経営理念や行動規範、色々な指針を作りました。それでもう毎朝、唱和ですよ。初めの頃は40分ぐらいやりましたが、今は15分にきゅっと縮めました。
――経営理念として掲げる、「安心と活力」「永続する企業」「幸福の追求」などを話すわけですね。理念経営の効果はすぐに表れましたか。
いやいやすぐではなく3、4年ぐらいはかかったのではないですかね。そして理念を掲げたことで採用の基準は変わりました。この業界でやっていたとか、頭の回転が速いということではなく、地に足が着いた仕事がしたいなどのタイプを採るようになりました。だから理念は大事。すべての面において反映されると思います。
――理念を書いた手帳には将来目標も書いているのですね。2020年の自己資本額の目標は2億円ですね。
バランスシートのビジョンとして本当は3億円欲しいのですが、自己資本が2億円あれば大震災がきても不景気になってもつぶれないだろうという考えです。ほかにも地域ごとの郵便番号や業者の入力コード、社員名簿、スケジュール表、手付金のルールなども入っています。すると見る頻度が増えるのですよ。
社員同士の飲み会実施
――ほかには、会社を変革させるため、どのような活動をしているのですか。
飲み会はよくしていました。社員をランダムに振り分けて4年ぐらいやりましたね。あまり話していない同士、5、6人くらいに分け、費用は全額経費で出します。年間200万円ほどかかりましたね。ほとんど話さない人がいる状況だと偏見が入る。その人のうわさだけしか聞いていなかったりして、けど飲んで話してみると意外に良いやつだったり。コミュニケーションのベースを作りたいとの思いです。
――理念経営を始めて4年ぐらい売り上げは横ばいですが、その後右肩上がりで伸びています。2011年には不動産事業も開始しました。
始めて4年ですが、中古住宅のリフォームが7000万円から8000万円ぐらいになりました。前期は増税で少し落ち込みましたが、年々売り上げは増えています。
あと、不動産事業を始めたことで、毎月現場調査の研修会を行う際、預かり物件があるので、このお風呂はこう測れとか、ここは注意しろとかを、実物件でできるようになりました。それまでは紙と写真だったので分かりにくかったと思います。
――実際の物件で、技術面の研修ができるのは大きい。
あとは、不動産事業を行うことで、新築か中古かの選択でお客さんが来るようになり、新築受注につながったこともあります。
――新築も年々増えているそうですね。
受注でいうと22棟、約4億円で、売り上げは2億円ぐらい。全体売り上げでいうと11億5000万円ほどです。そのうちリフォームは約8億4000万円です。
――最後に今後の会社のビジョンを教えてください。
テーマとしては住み継ぐ街づくりを掲げています。だからリフォームをする、家を建てるという個別事業ではなく、サイクルで回していくということです。建てるところから入ることもあれば、中古住宅を仲介してリフォームをする場合もある。
また、実家を二世帯にするようなサイクルにできれば、家を欧米やイギリス並みに100年使うこともできると思うのです。3世代、4世代住み継いでいくのが当たり前の街をつくろうということです。
――地方都市は間違いなく人口減少が進みます。リフォーム会社も街づくり等にかかわっていく必要があると感じます。
それをしないと山ほどあるバブル期の団地が毎年空き家になってしまう。おじいちゃん、おばあちゃんしかいなくなっています。ただ、もし選択肢として中古を買ってリフォームをするかっこいい提案をされたら普通に買うと思うのです。特に岡山などは新築市場で、そうした中古の発信をする人がいないからこそ、僕らが団地を活気あるものにするとか、建築不動産以外の切り口もあると思います。例えば倉敷などは観光都市なので3000円で泊まれるゲストハウスなど、儲かりはしませんが、良いですね。

本社 * 岡山県倉敷市 / 創業 * 明治16年
売上高 * 約11億5000万円 / 従業員数 * 49人(パート5人)
拠点数 * 3カ所(玉島本店・笠岡店・倉敷店)

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