オラクルひと・しくみ研究所 小阪裕司代表
行動科学をビジネスに応用
「人の感性と行動」を研究対象とする「行動科学」を応用したマーケティング戦略が、メーカーや小売業の売り上げアップに貢献している。行動科学の研究者である小阪裕司オラクルひと・しくみ研究所代表は「売り上げは、人がモノを買うという行動の結果の積み重ね。だからこそお客の心の動かし方を学び、販売の仕組みに取り込むことが大切」と語る。
"不要不急"の分野
―― 小阪さんが主宰する「ワクワク系マーケティング実践会」には全国の上場企業から個人商店まで幅広く参加しているそうですね。
私のマーケティング理論を実践していただく場であり、会員の業種は美容院、化粧品店、飲食店など多岐に渡りますが、住宅リフォーム会社の会員さんも結構多くいます。会員になると会報誌やDVDなどが送られてくるので、それを元に各地の会員さんたちが私どものビジネスマネジメント理論と実践手法を学び、自分のお店で実践します。リフォーム会社さんを含めて、皆さん業績を大きく伸ばしています。
―― リフォームに関しては、付加価値の高いリフォームの需要をどうやって掘り起こすかが課題です。
リフォームは"不要不急"ですから、必然性がないとやらない。リフォームを含めて今、ほとんどの商品やサービスが不要不急ですが、我々「ワクワク系」は不要不急の分野の売り上げを作る「価値創造活動」が得意です。
―― 例えばどんな事例がありますか。
典型的なのが呉服業です。呉服の市場は縮小傾向で、呉服そのものは不要不急ですが、うちの会員の呉服屋さんは、現代人が求めている"心の豊かさ"と呉服を上手に結びつけて提案しています。今まで呉服に関心のなかった人が試しに買い始め、段々と呉服好きになっていく。そこに一撃必殺の販促策があるわけではなく、「人にフォーカスする」、つまり人の心に働きかけて行動を生むという我々の理論のフレームを学んで地道に実践している結果だと思います。
「買う理由」を与える
―― そもそもリフォームに興味のない人を引っ張ってくることが、なかなかできていないのが実情です。
もったいない話ですが、住宅業界だけの話ではなく、どの業界もできていません。今はよほどの理由がない限りモノやサービスを買いません。人間の心理と行動の研究をしている私から見ると、お客さんに「買う理由」を与えていくような頭の使い方を、売る側の方がしていないと感じています。お客さんにもっと情報を与えて、とアドバイスすると、一生懸命商品の説明をする人がいますが、買う理由は必ずしも商品の特徴とは限らない。
―― ストーリーを語ることが大事と言われていますが。
最近は、モノでなくコトを売るとか、ストーリーが大事だと言われますが、人間の心理からすると一面しか見ていません。人は、「自分が買う理由」が分かったから心を動かすのであって、その1つにストーリーが含まれる。
だから人の心が動く本質を知ることが大切。また、消費者は心のつながりがある相手から買いたいと思うもの。売り手側の方から心のつながりをつくらないと、安売り店に流れてしまいます。
丁寧な需要創造が鍵
―― 経営者は自店の魅力を語り、消費者がそこで買う理由を発信する努力が必要ですね。
我々は"天然"と呼んでいますが、顧客に選ばれる情報発信を自然とやれる人が会員さんの中に2~3割はいます。ただそれが仕組みになっていないのでロスが多い。私たちは行動科学という科学的アプローチを使って、情報発信が誰でもできるようになるプログラムを開発しています。
―― 新たな市場創造で成功している業界の事例はありますか。
日本酒業界の例があります。ある名門酒会が、需要が下がる2月に的を絞り、「立春の朝、搾った酒を夜に飲む」という市場創造に取り組んだ。参加する酒蔵を増やしていき、業界全体が連携して消費者に働きかけた結果、今では1日に26万本売れています。
このような市場創造を住宅業界でもやりたいですね。丁寧な需要創造と、自社がお客さんに選ばれる理由を真摯(しんし)につくる。売り上げを生み出す「お客さんの感性と行動」について共に学び、業界全体で市場創造に取り組んでほしいと思います。

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