「新築建築物に太陽光発電の設備設置を義務付ける、都独自の制度の導入に向けた検討を開始いたします」。東京都の小池百合子知事の発言が波紋を呼んでいる。なぜ今、義務化を急ぐのか。その真意を東京都に尋ねた。【リポート/編集部 芦原拓】
2050年の排出ゼロに向け、まずハウスメーカー50社に義務付けか
「ソーラーパネルなんて強制するものじゃない。東京で義務化されれば、それが地方にも及ぶので心配だ」と声高に訴えるのは、他府県にある工務店の社長だ。「設置するかどうかはあくまで消費者の自由」だと考える経営者も少なくない。また、積雪地帯や狭小地帯では設置が難しい、という実情もある。義務化については昨年、国も提唱したが、さまざまな議論を呼んだ末に見送られた。
そのうえでなぜ小池都知事は今、義務化を訴えるのか。東京都環境局の古舘将成課長は次のように話す。「都が掲げる2030年までのカーボンハーフ(温室効果ガス2000年比50%削減)、そして2050年のゼロエミッション(排出ゼロ)に向けて太陽光発電を普及させるべきだと思っています。経済性があり、かつ戸建てに導入やすい」。都は2月に「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速 -Fast forward to "Carbon Half"-」を策定した。義務化はそのために欠かせない、という見解を示す。
省エネ住宅の普及によるカーボンハーフ実現を目指す(写真はイメージ)
東京都の積算によれば、都内の二酸化炭素の排出量のうち一般住宅からが29.3%に及ぶ(図1)。43.3%の法人企業を含め、建物だけで7割を占める。運輸の17.1%、廃棄物の3.4%を大きく引き離す結果で、これを問題視する。
古舘課長は、「環境局全体で調査し専門家の意見も交えて発案して知事にお伝えしました。知事の発言はそれを受けてのものです。発信力のある方ですので、すぐに広まりましたが、まだ内容も決まっていませんし、いつから、とも申し上げられません。条例改正をして、周知期間も必要です」と強調する。
都では独自に定めたUA値0.7以下の省エネ住宅を「東京ゼロエミ住宅」に認定するなどして普及に努めている。2050年までにこれを標準化するためにも、太陽光パネルの設置義務を消費者ではなく、事業者側に課す見込みだ。なお、都内の建物数約267万棟に対してパネル設置されているのは約10万棟、全体では3.7%に留まる。
とはいえ、ハードルは山積みだ。まず、前述のように、東京には狭小地帯が多く、パネルを設置するのに適した住宅ばかりとは限らない。そのため事業者ごとに、供給する延床面積に応じて「義務量」を設定する(図2)。例えば義務量が850kWであれば、4kWを100棟に、2kWを250棟に設置すれば、合計900kWでクリアに。残り150棟が設置不可であっても問題視しない。また、初めは中小・零細工務店は対象外にするなど柔軟性をもたせる。国の「住宅トップランナー制度」の対象となるハウスメーカー50社ほどに絞りスタートする。

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