「多能工を育成することで粗利益率が35%から40%に上がった」。こう話すのはワーキング・ビーの星野宇広社長。同社では昨年4月から利益率を高めるために多能工「リフォーマー」プロジェクトを開始。その結果、粗利益率が改善した。
小額工事で勝負
「中小企業は大手がやらない細かい工事を積極的に請け負うべき。それが存在価値になる」と語る星野社長。同社は大阪府八尾市を地盤としたリフォーム専門会社。
特徴は年間1300件という圧倒的な工事件数だ。年商は3億7000万円で平均単価は28万円。売り上げのうち、リピートオーダーが6割。地域に根付いた経営を志し、ハウスメーカーや大手があまり重要視しない小額工事を積極的に手掛けている。小さな工事をきっかけに顧客を増やしているが、課題があった。工事単価が低いため、1件あたりの利益額が少ないことだ。
人工代に注目
利益を増やすために考えたのが1件あたりの粗利益率を高めること。
利益率改善のためには、原価を抑える必要がある。そこで人工代に目を付けた。工期を短縮すれば、人工代は下がる。そこで多能工「リフォーマー」プロジェクトがスタートした。
リフォーム工事の職人は、大工、電気、設備、内装といったように専門職化されており、それぞれの職人に分離発注するのが一般的だ。同社ではこれらの工事を自社の社員で、なおかつ全ての分野の工事がこなせるようにすれば、時間的なロスや無駄な発注を減らし、人工代を減らせるのではと考えた。
約1年間の検証を行った結果、粗利益率が35%から40%に改善した。
生産性が倍に
改善した具体例を示す。例えば、35万円で契約した「和式トイレから洋式トイレへのリフォーム」を実例としてシミュレーションすると次のようになる。
まず分離発注する場合は、解体に2万5000円、設備に3万円、電気に 8000円、大工に3万6000円(2人工)、内装に2万、塗装に1万、美装に8000円、その他木下地材代で2万円。この手間代の合計は15万7000円。これにトイレ本体代金などを含めると原価は25万4000円。粗利益率は27%で、粗利益は9万6000円。なお、工期は3日間。
リフォーマーが施工する場合は、解体などのすべての工事を4人が担当。工期は2日間。コストは総額で7万2000円。廃材処分、仕込み部材などの材料代は3万円。これにトイレ本体代金などを含めると原価は19万9000円となる。粗利益率は43%、粗利益額は15万1000円となる。
約2割原価が下がることになり、粗利益率は16ポイント上昇している。なお、1日の平均獲得粗利で見ると、分離発注の場合は、3万2000円(粗利益÷工期3日)に対して、リフォーマーは7万5500円(粗利益÷工期2日)。つまり、多能工型発注は、分離発注に比べて、2倍の生産性となる。
特に粗利益率向上につながる要因がリフォーマーによって工期が短縮できる点。多能工は分離発注と違い、作業の待ち時間である"手待ち"のムダをなくすことができる。そのため作業効率が高まり、工期が短くなる。
多能工は受注率90%
メリットはコストダウンだけにとどまらない。追加工事受注と成約率の上昇が見込めるという。「職人さんとしてお客さんのところに行くと、お客さんが笑顔でどんどん話しかけてきて、注文をいただける。営業マンに相談するよりも敷居が低いと感じるんでしょう。営業もできるリフォーマーが1人いるのですが、その人は受注率が90%。他の人よりも4割高い」(星野社長)。
同社では現在2人のリフォーマーがいる。2人1組で動く体制だ。教育については社長自らが職人として働き、ノウハウを共有していった。
また、専用車も多能工にとって重要だという。ここには大工、水道、左官、電気、ペンキなど、それぞれの分野で使える約100種類の工具が備えられている。「多能工の1人は、建築作業未経験だが3カ月であらゆる工事を習得しました。今は工具が非常に高性能化していて、これらをうまく使えばどんな工事もそれほど難しくはない」(同社長)。
今後についてはリフォーマーを打ち出したチラシを作って、独自のブランドで反響営業を行っていく方針だ。

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