≪テーマ: 残業代込みの給与支払いにご用心≫
労使間紛争、信頼関係で防げ
◆今週のゲストコラムニスト◆
川目法律事務所 川目武彦弁護士
多額の賃金請求にも発展
当事務所では、工務店さんから「退職した従業員から多額の残業代を請求された」と相談を受けることがよくあります。
このようなケースでは、使用側の反論として、「基本給の中に時間外賃金が含まれている」というものがなされることがよくあります。 例えば、「給与明細には基本給として20万円と記載されており、このうちの5万円は残業代として支払われる賃金である。このことは労働者自身も納得していたはずだ」などというものです。
さてこのような場合、残業代(時間外賃金)の支払いは適法に行われていたと言えるでしょうか。原則的には、答えは「ノー」です。なぜならば、基本給が組み込まれている時間外賃金が、実際に労働時間に見合ったものであるのか、未払い分は存在しないかなどの具体的な計算ができなければ、残業代の支払いとして認めない可能性が高いからです。
このような措置が講じられていることはあまりないため、多くのケースでは、使用側の主張が法的に認められるのは難しくなります。
労使紛争が増加
過去の日本では終身雇用制度を前提とした労働契約であったために、労使間の紛争はそれほど多くはありませんでした。ところが、現在では、労働者の意識が大きく変化しており、以前に比べて労使紛争が激増していると言っても過言ではありません。そのような労使間の関係の変化として近年の時間外賃金請求事件の増加を挙げることができます。
これまでは、いわゆる「サービス残業」として労働者が泣き寝入りしていた賃金の未払い分に関して、最近では労働者の側が積極的に権利を行使してその支払いを求めることが増えてきたのです。
予防は「関係改善」から
一般に労使紛争に関しては、労働者側が強く、使用者側は弱いと言われます。個々の内容によっては使用者側の言い分が通ることももちろんあるのですが、そもそもこのような紛争が発生しないに越したことはありません。
それでは紛争の発生自体を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。私の意見としては、経営者が従業員との信頼関係の構築維持に努めることだと思います。
多くのケースでは、労使紛争が発生する会社は労使間の信頼関係が劣悪であると言えます。また紛争のきっかけも、パワハラめいた行為を受けた時に、従業員からこのような法的措置が講じられることが多いのです。
中小企業にとって第一の予防法は、就業規則や労働契約の見直しなどの法的な問題よりも、まずは「人間関係の改善」にある、というのが私の持論です。

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