TOTO 喜多村円 社長
TOTOは2017年5月15日に創立100周年を迎えた。同社のルーツは、明治時代に国産品の輸出を目指してスタートした貿易会社「森村組」にある。ものづくりへのこだわりは、1917年の東洋陶器設立から100年、現在のTOTOへと確実に受け継がれている。グローバルで商品開発を進める同社の喜多村円社長に話を聞いた。(聞き手・本紙社長 加覧光次郎)
欧米の衛生陶器を日本に定着させる
――先日、北九州市小倉のTOTOミュージアムを見学しました。創業時から衛生陶器の製造を志とし、たゆまぬ努力を続けてきた歴史がよく分かる展示だと思います。オリエンタル・セラミック・ワークスLTDという英語表記の商標マークもつくるなど、当時から海外を視野に入れていたことにも感銘を受けました。
TOTOの創業時の社名は東洋陶器ですから、東洋を訳してオリエンタルですね。初代社長の大倉和親は、欧米で視察した衛生陶器の文化を日本に定着させたい、さらに日本人がまだ見たこともない西洋式の腰掛便器を日本で製造する、という2つの想いから「東洋」を社名に入れました。国産便器の輸出を目指し、門司港が近い小倉を創業の地に選びました。
――大倉さんは、TOTOの前身である日本陶器の中に製陶研究所を設立しましたし、私財を投じてイギリスから窯を輸入するなど、衛生陶器の製造に並々ならぬ情熱を注いでいたのが分かります。
長年の研究の末、国産初の腰掛式水洗便器の開発に成功しますが、当時は下水道がほとんどなくて、衛生陶器ができても売れない時代が続きます。1970年に東陶機器に社名変更するまでの五十数年間は、啓もう活動をしながら衛生陶器の市場をつくり、一方で会社を運営するために食器をやっていた訳です。
――東陶機器に変わって完全に住設機器会社に生まれ変わるまでに、創業から何と50年もかかっているんですね。昔も今も商品開発に年月をかける姿勢は変わりませんが、中には給湯器など新規参入を目指したけれど途中でやめた製品もありました。今は売れているけれど、発売開始の頃は売れなくて苦労した商品は何ですか。
やはりウォシュレットでしょうね。売れない時代が一番長かった。最初は1964年から医療用に輸入販売し、1980年に正式にウォシュレットとして発売を始めました。
――輸入から足かけ20年は経っています。
私が入社したのが1981年ですけど、あのころはやっぱり返品の山が結構ありました。最初の配属先が経理だったので、返品の確認に行くのです。全工場回りますから。なんでこんな商品売っているのかというような目で経理は見ますので。
――順調に売れるようになったのは。
1982年にCMが出て数年後には軌道に乗っていたと思います。ただ、手応えはずっとあったと思います。何が手応えかというと、まず自分たち社員が使ってみる。使っていくうちに、自分たちもやみつきになる。「これ絶対売れるね」という確信はあったみたいです。それで最初は、代理店の奥さんに使ってもらおうと考えました。使ってもらえさえすれば、きっと良さを分かってもらえる。良さが分かったら、奥さんは「あれいいわよ」と周りに言ってくれるだろう。そこからスタートしています。
――三十数年前は返品の山みたいな状態だったウォシュレットが、2015年現在で全世界合計販売台数4000万台突破の大ヒット商品に育ったのですね。東京オリンピックの1964年からスタートしたユニットバスも黒字になるまでに時間がかかりましたね。
ユニットバスはずっと赤字で、カラリ床で一度黒字になったのですが、またそのあと赤字に転落。3~4年前から黒字になって、今は確実に黒字になっています。
――ウォシュレットやユニットバスは組み立て機械なので、他社が参入しやすいとも言えますが、衛生陶器は技術の積み重ねがないとできません。衛生陶器の分野ではTOTOが世界で1番技術が高いでしょうね。
私もそう思います。衛生陶器はまさにノウハウ、生産技術の塊。例えば工程では、原料の石を砕いて粉にして、配合して水を加えて型に流し込み、型を抜いて乾燥させて釉薬を塗って焼きます。その間、乾燥の時にどれだけ収縮し、焼いたときにどれだけ収縮するのか、それと乾燥の過程でどういう厚みの中にどれだけの水分が残っていたら焼くときに割れるのか、といったデータをスーパーコンピューターでシミュレーションできるようになっています。ただシミュレーションはスパコンがあればできるわけではなくて、実験データが全部そろわないと成り立たないのです。
――少ない水で流せるトルネード洗浄も、膨大な数を作ってデータをとり、いろんな不具合を確認しながら完成したものですね。

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