日本ホームインスペクターズ協会 長嶋修 理事長
来年4月の宅建業法の改正に伴い、インスペクションの告知が義務化される。その診断者として国土交通省は「既存住宅状況調査技術者」の育成を開始。講習団体は8月末時点で5団体登録。しかし、ホームインスペクター1457人を抱える日本ホームインスペクターズ協会(東京都新宿区)の名前はそこにはない。なぜなのか、長嶋修理事長に聞いた。
10年以内に「住宅診断」当たり前に
――協会は国交省が進めるインスペクション資格の講習団体は目指さないのですか。
目指しません。制度自体が非常に中途半端で、我々の目指す方向と全然違うんです。
――どのように違うのですか。
私どもは買い主の立場からインスペクションをすることを王道と考えています。それは実際に住む買い主こそが安心、納得して物件を購入することが当然だからです。ところが、改正宅建業法は全く買い主の立場に立っていません。
――国の制度では売り主のインスペクション実施を重要視しており、協会の立場とは違います。また買い主側がインスペクションについて知るのは、売買契約直前の重要事項説明の時になります。これでは物件を買う前にきちんと調べて検討することができないですよね。
しかも、契約後に診断をして問題を発見しても、解約できないんですよ。これは非常におかしい。アメリカでは、インスペクション前の売買契約は仮契約みたいなもので、診断後1週間とか一定期間以内であれば、自由に解約ができます。
――確かに、買い主にとっては非常に不利ですね。しかし、売り主が仲介業者と専任媒介契約を結ぶ時にも告知義務があります。この時に診断がしっかりなされ、情報開示されれば買い主は安心できるのではないでしょうか。
それが、売り主はへたに欠陥を指摘されたくないので診断されたくないんですよ。仮にされたとしても隠蔽される可能性もある。アメリカ同様に先行するオーストラリアでも過去、売り主側の診断で虚偽が記される問題も起こっています。
また、売り主の情報提供に嘘がなくても、それで100%買い主が安心できるわけではありません。私どもは診断の場では原則、購入希望者の同行を求めています。それは、実際に問題点を見てもらって、重大な問題なのか否か、どうすれば直るのかなどを説明しています。そうすることが、安心、納得して購入することになり、ユーザーのリテラシーが高まるからです。
――国の資格者になるは建築士の有資格者であることが義務付けられています。建築士資格の有無を問わない協会のスタンス
とも違うように感じます。
私どもが建築士資格の有無を問わないのは、都市圏と地方の格差をつくらないためです。
例えば、地方の場合、建築士資格を持たない工務店が長年の実務で身につけた経験や知識を元にユーザーの住宅を回って修繕したりリフォームしたりもしています。これを一律、建築士の有資格者に限定すると、地方で診断できる人がいなくなってしまいますよ。
――しかし、一般消費者はインスペクションのイの字も知りません。そういった中で、ある意味、国交省のお墨付きを得ている同資格の方が安心するでしょうし、公的に認められた団体として発展性もあるのではないですか。

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