TOTO
トイレ空間開発部 トイレ空間住宅開発グループ
グループリーダー 原田康之さん
―――トイレは家族が毎日使う場所なので、掃除が大変です。男性が洋式トイレを使うと、1日あたり1人2300滴も床におしっこが飛び散るそうです。
トイレ掃除の悩みを突き詰めていくと、便器自体の汚れに加え、トイレの床の汚れであることが、当社のアンケート調査でも分かりました。特に、床と便器の間のすきまは掃除しにくく、汚れがたまりやすい部分なのです。便器を床からはがすと、拭き切れなった尿汚れが輪ジミになって残っていたりします。実際にご家庭にうかがうと、「このすきまによごれがたまるのよ」とユーザー様が不満を訴えます。この悩みを解決できる商品をぜひ開発したいと思っていました。
―――それほど、トイレの掃除の悩みは大きいのですね。
お客様は、掃除が楽なトイレを求めておられます。3年前に行ったヒアリング調査で、タンク式トイレ、タンクレストイレ、壁掛け式トイレのうち、どのトイレがよいかを選んでもらったら、75%のお客様が壁掛け式トイレをお選びになりました。理由は「便器と床の境目がないので掃除がしやすそう」がトップでした。
―――壁掛けにすることによって、清掃性はどのくらい向上しましたか。
便器と床の間が60ミリ空くので、便器下の床を雑巾でサッとひと拭きすることができます。クイックルワイパーや、一般的な掃除機ヘッドであれば楽に便器下に入ります。便器の後ろ側に手が届かなくて、拭き残してしまうようなこともありません。
壁掛け式のため、床下を直接掃除することができ、床の清掃性が大きく向上した
―――壁掛けトイレは、駅やビルなどの公共空間で先行していましたが、木造住宅用の開発は課題が多かったそうですね。
壁掛け大便器の場合、約30キロの便器と人の体重がかかるので、その荷重をどこで支えるかがポイントです。ビルの場合、便器はコンクリートの躯体にボルトでしっかり固定することができるので、がっちり動きません。ところが、これをそのまま木造住宅に転用すると、便器の設置面である後ろ壁が荷重に耐えきれずにたわんでしまいます。たわみを防ぐには、壁に補強が必要になるのですが、最初は後ろ壁にしか目が行かず、うまくいきませんでした。試行錯誤の末、ボール紙をトイレ空間の壁面に見立てて「コの字」に折って机の上に置いてみると、突破口が開けました。
―――突破口とは?
ボール紙がコの字になっていると、後ろ壁に相当する面に力を加えても、左右の面に力が伝達されるので、後ろ壁が倒れません。「そうだ、壁は横にもある、横壁も含めて支えたらどうか」というアイデアがひらめいたのです。レストパルFでは、専用のフレームを、12ミリの合板を使って後ろ壁に固定します。便器にかかる荷重は、フレームから横壁に伝わるので、後ろ壁が便器に引っ張られません。この「横壁で荷重を支える」という考えに至るのに、正直なところ、3年かかりました。
―――木造住宅でも取り付けられるようになると、ユーザーの幅が広がることが期待できます。
新築はもちろん、トイレ空間の雰囲気を一新したい方へもお勧めです。価格はレストパルシリーズよりも高めですが、清掃性のよさに加えて、浮揚感のあるフローティングデザインもお客様の選択肢になると思います。壁掛け式大便器は、ヨーロッパでは一般的なデザインの1つです。日本でも住宅用トイレの新たな価値を提案できると思います。

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