三栄水栓製作所 西岡利明社長
三栄水栓製作所(大阪府大阪市)は、有名デザイナーとのコラボレーションなどによるデザイン力で知られる水栓金具の専門メーカーだ。昨年、創業60周年を迎えた同社は、日本初の"クリック機構"のレバーハンドル開発などで、技術面での評価も高い。早くから海外への進出も行って世界の水文化に明るい西岡利明社長に、商品開発のこだわりや今後の展望を聞いた。
(聞き手/本紙社長・加覧光次郎)
"物件採用"でトータルの水まわり提案
―― 西岡社長が就任されて10年、売り上げも前期は191億円と、200億円の大台が見えてきましたね。
社長就任以来、力を入れてきたことの1つは、"物件採用"と呼ぶ営業活動です。ハウスメーカーやデベロッパーなどの設計者さんに直接、当社の製品をスペックしていただけるような営業を行うもので、おかげさまで最近は、どこのメーカーのキッチン、バスでも"水栓は三栄のものを"と選ばれるようになってきました。
―― 日本のマーケットでは、水栓金具はキッチンやバスの部品として取り付けて販売しているケースが多いですよね。だから家中の水栓がバラバラになってしまう。
実際に住まわれる住宅のユーザーさんの立場に立っても、家の中の水栓は同じメーカーの方がメンテナンスなどを考えても便利なんです。「キッチンの水栓が壊れて修理に来た業者に、お風呂の水栓の不具合も見てほしいと頼んだら、"これは別のメーカーのものなので"と断られた」というユーザーさんの声も聞かれます。
――キッチンにしろバスにしろ、水栓は一日でも止まって使えなかったら、住む人は大変です。だから、メンテナンスは重要ですよね。
今、当社では、水栓ということだけでなく、配管から蛇口まで安心安全な水を供給する"給水ライン"トータルでのご提案もさせていただいています。ハウスメーカーさんにとっても、ユーザーさんにも、何か不具合が起きた時に、メーターから先の水まわりは当社で責任を持つとした方が、分かりやすいのではないかと思います。

「EDDIES」シングルワンホール洗面混合栓。"フラット吐水"が独特な平面的な流れを演出する
"水の流れ、音"までを追求する
―― 御社は、有名な外部デザイナーたちとコラボレーションした、オリジナリティの高い水栓シリーズで知られますね。
喜多俊之氏がデザインした「kiwitap」シリーズのキッチン水栓は、2007年のグッドデザイン賞を受賞しました。また、建築家エドワード鈴木氏が滝や渦をイメージしてデザインした「EDDIES」シリーズ、空間デザイナーの森田恭通氏がデザインした、水栓を陶器で覆うという「TOH」シリーズも大変注目されました。当社では、水栓のフォルムというだけでなく、蛇口から排水されるまでの流れ方や音なども含めたデザインを考えています。
――"水音"って蛇口によって違いますか?
例えば、今、自動オートバスの普及で、湯を注ぐ専用水栓のない風呂場が主流です。でも人の暮らしの中で、五感って、とても大事なんですね。一日の疲れを癒すためには、浴槽に勢いよく注がれる水の流れを目で見て、水の音を感じ、湯に浸かって温かさを体で感じる、すべての段階が必要なのです。音もなく溜まった湯に入るだけでは、人に及ぼすリラクゼーション効果は、グンと下がってしまいますよ。私どもは今、水が水面を打つ音の心地よさといった、三栄ならではの"感性基準"を研究しています。例えば、「EDDIES」の混合栓では、従来と同じ水量で"流れる音や感触"にこだわった吐水を表現しています。
―― 今後の商品展開は、その"感性基準"を基にしたものでしょうか。
五感の中の"視覚"という点で、今までは、置かれた空間にスッとなじむような水栓を考えてきたのですが、昨年、創業60周年を迎え、"蛇口が目立ってもいいじゃないか?"という思いを持ちました。そこで「SUTTO」シリーズのレバーハンドルの表面デザインを公募し、デザイナー、アーティストなど36組60種類の個性豊かなデザインを発表しました。カラフルな花柄からシックな幾何学模様、ワクワクするアニマル柄等・・・。水栓をファッション感覚で、楽しんで使っていただきたいと思っています。
またこのシリーズは、今年1月から来年3月まで売り上げの一部を、世界の水道のない地域で井戸を掘る活動をしている、アメリカのNPO団体「チャリティーウォーター」に寄付させていただきます。

「SUTTO」60周年記念モデル「60th with 60Design」着せ替え感覚でデザインを楽しめる
日本で、世界へ、「SANEI」らしさを発信
―― また西岡社長は、海外の市場開拓にも積極的に挑戦しています。中国の大連に関連会社を設立し、上海の「Kitchen&Bath China」や、ミラノサローネ、マチェフといった海外の展示会にも積極的に出展しています。日本と海外での水栓文化の違いは感じますか。
例えば、アメリカや中国などでは"見せるキッチン"と"使うキッチン"が別だったりします。富裕層では調理はメードが行いますので、豪華でお洒落なキッチンであっても、見栄えだけ良くて、機能面では主婦がメーンに使う日本の方が優れていると思います。また大きな違いとして、日本のように蛇口から"飲める水"が出るシステム自体が、世界でも稀有なことなのですね。日本の水栓メーカーはその点で、みな、人の命に関わる問題として厳しい基準をクリアする等、真摯に取り組んでいると思います。
―― 今では多く見られるレバーのクリック音は、御社が始めたそうですね。
1995年に、日本で初でした。電気のスイッチをつけたり消したりする時に"パチッ"という音と感触があるように、"水を流す、止める"という動作にも"決まりを付けましょう"という発想ですね。住宅展示場のモデルルームなどでは、主婦の方がキッチンの使い勝手をいろいろ触って確かめたりしますが、一度当社のレバーを使うと、ほかの使用感では物足りなくなると言われたそうです。当時は「水栓一つで、家一棟が売れる」というキャッチでかなりの注文がありましたね。
―― 昨年は創業60周年を記念した方針説明会を行い、次の60年を見据えた決意を表明されました。
60年は人でいえば"還暦"で、企業にとっても大きな節目となります。そこで「Open, THE SANEI」というキャッチを考えました。"Open"は、蛇口の栓を開くことと"SANEI"を世界に向けて開示していこうという意味を重ねています。「S・A・N・E・I」の頭文字にも、それぞれ"Story、Amenity、Nature、Engineering、Innovation"の意味を持たせ、そのすべてに力を注ぎ、次の60年まで頑張っていきたいと思っています。
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