パネルディスカッション「先進的なビジネスモデルを駆使したリフォーム産業のあり方」
ホームプロ 伊藤栄作社長 × ナサホーム 江川貴志社長 × リビタ 内山博文常務
2020年まで、政府がリフォーム市場12兆円の目標を掲げる中、市場拡大には何が必要なのか。先日行われた「先進的なリフォーム事業者表彰」のパネルディスカッションでは、表彰者たちがそのキーポイントについて意見を出し合った。
リフォーム営業に必要な3つの力
――「リフォーム市場を拡大するために業界全体でどういうことを取り組めばよいのか」ということをお聞きしたいと思います。最初のテーマは「人材育成」です。
伊藤 多くのリフォーム会社の方に「人をどのように採用したら良いのか」「人をどのように育てたら良いのか」という「人材育成」の課題は一番よく聞く話です。もともとリフォームというのは労働集約型の側面があるので、人が課題になるというのは当然のこと。そして、どういう能力が必要かと聞きますと、リフォームの営業の方に必要なのは「コミュニケーション力」「段取り力」「提案力」の3つだという答えを聞きます。どれ1つとっても高い能力です。この3つがそれぞれ揃わないといけないのは、人材要件としても高いレベルだと思います。
またさらに難しいのは、各社によってその「型」がバラバラということです。「提案力」「段取り力」みたいなものはある程度の型があった方が習得はしやすい。「型化」することができる会社さんは非常に仕組みづくりがうまい。なかなか小さなリフォーム会社だと難しいです。そこで、例えば、そういったものが資格制度みたいになっても良いのではと思います。家のリフォームする会社を「ホームドクター」と言ったりしますが、「ホームドクター」になるのにも資格制度があってもよい。それによって自分たちが高めなくてはならない技術力や提案力といったものが明らかになり、早く習得できる仕組みづくりがあったら良いと思います。
――「型」ということですが、ナサホームさんは「みずらぼ」(水まわり専門店)で単価の低い工事を受注し、そこで経験を積んでから、大きな工事を「ナサホーム」で行って成長していくというシステムをつくられてきました。人材育成ということに関するナサホームさんの課題や意識は何ですか。
江川 弊社の場合、一番大事なことは営業マンのレベルを上げていって工事品質を上げていく。そのためにはベテラン社員の離職を防ぎ、長く勤めている人を増やす。ベテラン社員がお客様と接する機会が多ければ多いほど、ナサホームのレベルは上がり、顧客満足度は上がっていくと思っています。ですから労働環境も含めて長く勤められるような仕組みを作りました。「みずらぼ」を作ったのもそういう目的の部分があります。「みずらぼ」から「ナサホーム」へ移ることで、辞めてしまうことなく内部でずっと経験を積ませていく。
それと弊社で教育という課題でうまくいっていると思うのが、営業マンが売り上げをあげるか否かは、その人の社内での評価の1/3程度。残りは、2年目以降に部下・後輩の育成にいかに尽力するかということと、営業成績につながらない仕事でも会社の5~10年後の将来を見据え、議論することも含めて会社全体の仕事にいかに力を尽くしているかということ。それぞれ(評価の)1/3ずつです。こういう評価基準をしっかり決めているのですが、やっぱり全体の1/3の部分が人材育成に関わっているというのが影響していると思います。
細かい制度を話すと、皆が気持ちよく勤められるように色々な部署の業績優秀者を海外旅行や表彰旅行に連れて行ったり、誕生日にはリッツカールトンホテルのペアディナー券を渡したりなどということもやっていますが、やっぱり経営者自身がいかに離職率を下げて労働環境を良くしていくかということが大切ですね。頑張っている社員に感謝の気持ちを表せるかということが一番大きいと思います。
事業遂行に求められる広範囲な知識と能力
―― 内山さんにもお聞きします。リビタさんの場合は色々な事業を手掛けていらっしゃって、課題が山積する中で、総合力で正面突破しようという姿勢を感じます。その中で「住まい方」だったり、町の使い方の提案など、提案力に関して非常にたけているのではと思います。人材育成に関してはどのようにお考えでしょうか。
内山 例えば施工の分野ですと、ある建物がリフォーム・リノベーションされていく一側面だけでなく、入り口から物事を考えて、まさに物件を買うところから、作り込むところ、プロジェクトマネジメントという形で外部のパートナーをとりまとめ、最後ゴールまでお客様の満足いただけるようなものを提供していくところまでやらなくてはいけません。何をやっているかというと、まさに外部を取りまとめて、ハブとなってプロジェクトをマネジメントしている人
間が多い。マンション1つを買うにしても、単に仕入れの人間は仕入れるだけで終わってしまうということではなく、きちっと販売させるまで終わらせることを念頭においています。そのため、かなり広範囲な知識が必要になるのですが、そうでないとリフォーム・リノベーションの分野でそれなりの数字を残していくのは難しいと感じています。
縦割りされた組織の中で、業務をルーティン化し大量生産するのではなく、多様化されたマーケットの中で、各自が求める適したものを提供できないといけないというのが、私どもが行き着いている答えです。単にお金があって物件を持ってきて、それ相応のものを作って売れば売れるという従来型の住宅のビジネスモデルとはちょっと違うなと感じています。
ですから何を求めているのかというと、入り口ではマーケティング力が必要ですが、その後は周りをとりまとめていくディレクション力、お客様が何を求めているのかニーズを把握する力、そしてそれを実行に移す実行力まで、かなり幅広い能力がないといけない。そういった意味ではいかにインプットを多くさせるか、インプットの機会を多く与えるかということが非常に大事かなと思います。それは国内外の非常にたけた事業者さんの事例だけでなく、この分野でいけば少子高齢化が非常に進んでいる北欧諸国など諸外国の事例を見に行かせることも必要だと思っています。
社員職人の増員がお客様満足に直結
――次のテーマは顧客の満足についてです。工事の品質を高めるための取り組みをお聞かせください。
江川 実は数年前に弊社独自の施工管理基準を設けまして、最低限の決まり事として運用しています。ただそれ以前は、経験ある営業マン・現場監督であればよいのですが、そうでなければ現場ごとに打ち合わせをする現状でした。ですが職人さんは楽な方に流れていく。同じ施工パターンでも現場によって納め方・仕分け方がバラバラだったのですね。その辺りに危機感を感じて施工基準を決めたことは大きかったと思います。
あと社内職人が8人だけなので、増やそうと思っています。どちらかというと多能工ですね。ガス工事など一部の専門的な工事はともかくとして、キッチンを解体し、下地造作し、給排水の移設をし、キッチンを組み立てるといった一連の工事を、ほぼ1人の職人が行う。キッチンであれば1日~1日半、ユニットバスであれば1日で終わらせてしまうといった具合です。その上、自社職人であればしつけも行き届いているからお客様からの評価も高い。こうした本来は大工さんと水道屋さんが一緒にならないとできないような工事を、1人でできる職人が全国的に増えればよいと思います。
――職人のマナーについては何か取り組みをされていますか。
江川 以前からやっていますが、これで終わり、これが完璧というものはないですね。どこの工務店でもやっているとは思うのですが、職人会の方で年に4回のうち最低2回は義務付ける形でマナー研修を開いています。口酸っぱくして言ってはいますが、現場サイドで「私語・雜語が嫌だった」などのアンケート結果を頂くことがあります。社内職人が入った現場というのはお客様の評価が抜群。そういう意味でも、やっぱり社内職人の数を増やしていきたいと強く思います。
中古物件の情報開示が必要
――では内山さんにお聞きしますが、中古の物件を取り扱うリスクに関してはどのように考えていますか。
内山 私どもが(物件を)購入するにあたり、徹底して調査した上で取得しております。中古物件と言うのは、一般消費者が個人のリスクで取引するにはまだまだ情報開示が進んでいない、それは売り主側からの開示も含めて少ないと思います。もちろん宅建業者が間に入ってそれ相応の調査はするのですが、その現場をみても正直、仲介側の役割はハード全体を徹底的に調査することではありません。いかにそのあたりをローコストに合理的に行える仕組みをどう整えるか、瑕疵保険の仕組みなど第3者の仕組みといかに連携させるかというところが大きなポイントになってくると思います。
――次に伊藤さんにお聞きします。ホームプロのサイトを見ますと、事業者を評価する仕組みの中に、結果だけでなく過程をみせるということで顧客満足度を評価する仕組みづくりをされているのかなと思います。サービスをどのような仕組みで評価したいと考えていますか。
伊藤 お客様にインタビューをすると、リフォームして非常に良かったという声が聞かれる半面、非常に疲れたと言う方も非常に多いのです。毎年データをとっているのですが、初めてリフォームをする人の割合は6割で毎年変わらない。将来的には4対6位でもっとリピーターの方が増えれば、もっとこのマーケットは広がるのではないかと思います。そのためには1回目の経験で嬉しいとか楽しいという感想を持ってほしい。
お客様インタビューでは、どこでリフォームするか決める際「最後には価格で決めた」という声がよく聞かれます。一方で、工事後に「この会社でなぜ良かったか」と聞くと、「価格」を挙げる声はほとんど聞かれません。「ここのリフォーム会社が挙げた、これこれの提案が良かった」ということを言っています。これこれの提案はそれほど大したことではなかったりもする。あるお客様は物干し竿を家の中にもつけられるようにしただけで、ものすごくそのリフォーム会社の評価を高くしたこともあります。やっぱり価格だけに頼らない提案力、それもお客様の暮らしやすさに根付いた提案をしっかりしていくことが次のリピートにつながるのではと思います。
高度な提案力以外に重要なこと
――リフォームは初めての経験なので、この先、何が起こるか分からない消費者にWEBで色々な情報を発信していましたね。
伊藤 お客様の中には、リフォーム会社に行って座って待っていたら自動的に提案が出てくるという誤解を持っている人もいます。ちゃんとコミュニケーションをとらないといい提案をもらえないということも多いと思うのです。逆に「リフォーム会社さんのお話ではそんなこと言ってなかったよ」ということもある。
私どものサイトの中で、あるボタン機能をつけたらすごく改善したのですが、メールコミュニケーションをしている間に「次は現調しましょう」というボタンをつけたのです。そうしたら皆さんがこのボタンを押すようになりました。つまりいつまでも会話をしているものだと思っている人もいらっしゃる。そこで「ある程度納得したら現調に進みましょうよ」とうまく誘導してあげることが必要なのかと思います。
――リビタさんの取り組みを見ていますと、住み手と一緒に場所を作っていくということを1つのサービスと捉えられているのかなと思われます。
内山 私は前職でコーポラティブ住宅という新築でのオーダーメード住宅を手掛けていて、そこで色々と気付くことがあったことがヒントになっているのかもしれません。今になって思いますと、分譲マンションに住むお客様は、間仕切り壁が何でできているのか、それが移動できるのか取り壊しできるのかといったことも分からない方がほとんど。よくこれはリフォームできるんですかと聞かれることが多かったのです。当たり前ですが、図面にどこがコンクリートかは書いてあるのですけど、住まいそのものがどうやってできているのか知っていただくというのは、このリフォーム業界が拡大していく上で一番必要な情報じゃないかなと感じています。
最近出てきているDIYのような発想にもつながっていきますし、大切に使い続けることで住まいそのものの資産価値が向上することにもつながります。やっぱり使い捨ての文化が今までは強かったですが、これからは受け継いでいくものとして入り口の部分を自分が作ってみるという視点が非常に大切。そういった意味で、フルにオーダーするお客様もいますが、手軽にちょっと棚をつけたいというお客様もいますし、色々なニーズがある。大きく言えば自由設計の仕組みを3つ位設けているのです。
お客様への積極的な連絡も大切
――江川さんにお聞きします。消費者にどうしたら満足してもらえるか、コミュニケーションをしっかりとっていく中で満足度を高めていくこととは、どういったところでしょうか。
江川 おうちのプロである以上、高い提案力と優秀な工事品質というのは絶対条件ですが、実際お客様の満足につながるかというと必ずしもそうではないです。例えば営業マンによっては、リピーターがやたら多い人間とほとんどない人間がいる。やたら多い人間の行動分析をして横展開しようという取り組みをしたところ、リピーターが多い営業マンは必ずしも高度な提案力があるとかいうわけではないんです。
電話連絡がものすごくきっちりこまめで丁寧、例えばその日現場確認に行けなかったら職人に聞いて「今日は現場へ行けませんでしたが、職人に聞いて確認したところここまで進んで明日はこうする予定だそうです」というような説明を事細かにしているのです。それからやたら手紙やはがきを出す。
そういう属人的な部分で非常に顧客満足度が高まっている。居住中の工事の場合などは、家にいる奥さんはそういった連絡を密にしてくれる営業マンに満足度を高く感じてしまうかなと思います。あと現地調査の時にお客様が不満なところをいくつか言う中で、ちょっと手先が器用なら、ぽんとドライバー出してきてその場ですぐ修理してしまい、「お金はもう要りません」とか言うと、もう信頼を得て相見積もりをとるとかは関係ない世界になる。
結局、会社としては高い工事品質と高い提案力のレベルというのを求めてはいますけど、実際お客様が感じているのは、そうした部分が多いのかなと肌感覚では思っています。
≪プロフィール≫
●ホームプロ 伊藤栄作前社長
インターネットサイト上で、消費者向けにリフォーム事業者を紹介するプラットフォームを構築。「安全・安心なリフォーム」の提供のため、顧客視点により、事業者の厳格な審査や顧客満足度の可視化、工事完成保証の付与、さらには加盟会社の育成に取り組む。
※3月末でホームプロ社長を退任し、4月1日付でリクルート執行役員に就任しました。
●ナサホーム 江川貴志社長
水まわりに工事内容を絞った専門店を新たに展開することで、消費者にとって分かりやすさと安心感を提供。イメージが異なる二つのサービスブランドが連携することにより、潜在顧客の掘り起こしだけでなく、人材育成・社内体制の構築など様々なメリットを創出。
●リビタ 内山博文常務
一棟丸ごとリノベーション分譲事業を始め、シェア型賃貸住宅の企画・運営、中古住宅リノベーションのワンストップサービス等幅広く展開。加えて、戸建てリノベーション事業や地方自治体との公民連携事業にも取り組み、サステイナブル社会の実現を目指す。
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