「空き家」の管理サービスが続々と登場する中、2011年から空き家・空き地の巡回事業を手掛けているNPO法人とやまホーム管理サービス(富山県富山市)。これまでの累計管理数は200件を超え、同業他社に比べて実績は多い。理事で、不動産鑑定会社の経営者でもある中山聡氏に事業モデルや課題などについて聞いた。
NPO法人とやまホーム管理サービス 中山聡理事
富山県生まれ。東京大学医学部卒業。わくわく法人rea東海北陸不動産鑑定・建築スタジオ株式会社代表取締役。NPO法人とやまホーム管理サービス理事。著書に、『ビジネス図解 不動産のしくみがわかる本』(同文館出版DOBOOKS)などがある。
料金は2,000円
――富山市を中心に空き家管理サービスを提供していますが、これまでどれくらいの実績がありますか。
2015年7月末現在で毎月の管理件数は58件、2011年に開始以来累計で232件あります。また、管理報告書の発行数は累計で952件。巡回はボランティアを含む339人の会員が行い、土地、建物ともに外観からの様子を確認します。
対象物件を写真撮影し、報告書を作成したら、住宅の持ち主の方に郵送する。料金は空き家が2,000円、空き地が1,000円です。要望があれば、室内のチェック、通風、通水や郵便物の整理なども行います。
――どのような理由で管理を依頼してくるのでしょうか。
遠隔地に住んでいるため頻繁に帰省できない方で、田舎の実家の様子が気にかかるという方、一人暮らしの老人宅で、その方が入院してしまったという方、成年後見人で、裁判所に定期的に被後見人の財産について報告する必要がある方などです。
地域を良くしたいという会員らによって空き家の巡回が一年中行われている
「死ぬまでに売りたい」
――管理した物件は売却したり、賃貸に出したり、リフォームしたりと、何か「活用」をサポートしていますか。
長期間空き家になって管理を依頼されるということは、不動産売却や有効活用できなかった、または、諦めた物件ということになります。そういった不動産は駅から距離があるなど、もともと需要が少ない立地で、地価も安く、建物は築30年から140年と古い。地方ではそのような物件が多いため、「いくらでもいいから死ぬまでに空き家を売却したい」という依頼が一番多いですね。
そのため監督官庁と相談の上「100円不動産」というプロジェクトを作り、1円、100円といった価格で、空き家を直接売買するお手伝いをしています。実際に「田舎暮らしをしてみたい」という問い合わせは多くあります。空き家を安く購入して自分なりにリフォームして住むような、田舎暮らしに憧れて実践される方の住居として活用されるのが最も多い空き家の活用方法です。
―― ただでもいいから譲りたいというニーズがあるわけですね。
富山県に限らず、地方で打ち捨てられたような空き家があるところはだいたいそのような状況かと思います。先祖から受け継いだ思い出のたくさんある空き家を売ろうとしても微々たる金額にしかならないと思えば、売却して少々のお金をもらうよりも、血縁関係のない他人でも空き家を次に使ってもらえることで、あの世でご先祖様に会った時に喜んでもらえるだろうという考えに至るようです。
「管理責任」の認識は低い
――空き家を管理してほしいというニーズは今後増えてくると考えられるでしょうか。
"空き家管理"法が制定されたとか、社会問題としてメディアに取り上げられる社会背景もあるためでしょうか、実際に当法人での管理件数も増加傾向にあり、問い合わせはほぼ毎日あり、現にニーズは増えているのではないかと思います。
また、私たちのところにも活動について講演やセミナーをしてほしいという依頼も増えているところから想像すると、空き家管理サービスを手掛けたいという提供者側からも注目が高まっているように感じます。
――難しいと感じること、課題だと感じることはありますか。
空き家は持ち主の生活の一部であったことから、空き家に関係する問題を解決するためには、建築、不動産以外にも、被服、装飾、農業など衣食住すべてにわたる広範な知識が必要である上に、専門知識が人として正しい方向に使われているかどうかという正しさも必要になる点は、組織や人としてバランスがとれていないと難しいと思います。
また、建物を維持管理することが所有者の責任であることは建築基準法や空き家対策法などの法令で明記されていますが、実際空き家のために費用を支払って管理するものだと認識している人、建物を管理するのは持ち主の責任として必要なコストであると認識される方はとても少ないように感じます。

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