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ホームステイ、カフェ、子供の遊び場に
神奈川県横浜市西区の住宅地にある2軒続きの古民家長屋が、今ひそかに注目を集めている。この物件「CASACO(カサコ)」を手掛けたのは、設計事務所のトミトアーキテクチャ(同)。完成までのエピソードと、施設の魅力を紹介する。
2016年4月にオープンした時の様子
きっかけは無茶な相談
京浜急行線「日ノ出町」駅から徒歩数分。空き家を改修したこの施設の用途を説明するのは、簡単ではない。ここはNPOの事務所兼スタッフの住居であり、外国人がホームステイする部屋であり、さらにレンタルスペース、カフェ、子供の遊び場的側面を持つ。
朝、1階のリビングでは外国人と近隣のお年寄りたちが交流し、夕方には学校帰りの子供たちが宿題を、夜には大人たちがコスパのよい料理とお酒を振る舞うバーが開店する。
この多目的施設CASACOは、どのようにして出来上がったのか。きっかけは、3年前、同社代表の伊藤孝仁さんに寄せられた、無茶な相談だった。
「同世代の青年から、空いた古い空き家をDIYし、住みながら地域に開く場所にしたいが、どうすればいいかというものでした。しかも予算は0円」(伊藤さん)
普通であればやんわりと断るような相談だが、伊藤さんは興味を引かれた。建物をどう使うかという段階から設計に携わることで、新しい建築の知識が得られるのでは、と感じた。またこの青年、加藤功甫さんの人柄、家を開きたいという思いにも共感した。
施設のコンセプトは、「多世代・多国籍の交流」。加藤さんを中心としたNPOのメンバーが実現したい、「旅する外国人と地域の交流」、「児童教育」などの思いを詰め込んだ。
しかしDIYで作り上げるとはいえ、元手となる資金は必要。当初はネット上で資金を募集するクラウドファンディングも検討したが、横浜市の「ヨコハマ市民まち普請事業」を活用することにした。
これは市民の生活に役立つ施設の整備費用を補助するコンテスト型事業。ほぼ一年かけて設計を行い、道路に面した建物の一部を解体し、居住者や地域住民が集うオープンなスペースをつくることとなった。鉄骨での補強、2棟の間にある壁の撤去などに構造に関わる工事にかかった費用は約800万円。そのうち6割は市からの補助金で、それ以外は寄付などで工面した。
右からトミトアーキテクチャの伊藤孝仁さん、冨永美保さん、運営メンバーの柴田真帆さん
カラスが巣をつくるように
設計や補助事業への申請と平行して、地域住民への周知も始めた。僕たちがやろうとしていることを、もっと知ってほしい―――。しかしその思いとは裏腹に、地域住民、特に大人たちは近寄ろうとしなかった。
伊藤さんは「突然知らない若者たちが移り住んできたわけですから、怪しい宗教団体とでも思われていたかも知れませんね」と苦笑する。

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