YKK AP 堀 秀充社長
1957年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1981年3月YKK(旧 吉田工業)入社。1989年6月より2006年9月まで米国勤務。2006年10月YKK AP経営企画室長。2007年4月執行役員 経営企画室長。2009年4月上席常務 事業本部長。2009年6月取締役上席常務事業本部長。2011年6月、代表取締役社長就任。
世界基準の樹脂窓3割普及目指す
住宅の基本性能の向上を考えるうえで、窓の性能アップははずせない。夏に流入する熱は70%が窓からで、冬は室内の熱の50%が窓から失われる。その重要性に比して消費者の意識は低く、リフォーム率は依然5%程度。このジレンマをどう解消していくのか。窓のトップメーカーYKK APの社長で、17年におよぶ米国滞在歴を持つ堀秀充氏に、世界の窓市場、日本との文化的な違い、そして今後の展望を伺った。
(聞き手・本紙社長 加覧光次郎)
窓市場の6割がリフォーム
―――堀社長はアメリカへの赴任期間も長く、現地で窓の販売戦略を作ってこられたと聞いています。そこで日本とアメリカ、海外の窓事情の違いから伺います。
欧米の窓市場はリフォームが主体で6割を占めています。私は1989年から2006年までアメリカにいましたが、その頃からリフォームしかやらない樹脂窓メーカーがありました。非常に高性能な窓ガラスを作っていまして、クリプトンガス封入のトリプルガラスというようなものが2004年頃には既に市場に出回っていました。
―――窓リフォームの進め方というのは実際どうなのでしょう。
私どもも一度、どんなものかやってみようと、建材会社の社長の窓リフォームをしたことがあるんです。この仕事がどういう流れで来るのかというと、施主から請け負ったリフォーム業者が、窓業者3社くらいに声をかけるんです。そして施主の前でプレゼンをさせる。施主が高い、安い、性能がどうかを見て決め、それをリフォーム業者に伝える。専門化しているんですね。リフォーム業者も全部は分からないから、モノは施主が決めてくれとなる。リスク回避しているとも言えますが施主の意識が高いとも言えますね。リフォーム業者は全部やらずに窓の専門会社が施主に提案して決める形ですね。
―――どんな工事が主体なのでしょうか。
まず木製サッシから樹脂サッシへのリフォーム。アメリカは新築では基本的に木製サッシなんです。しかし、木製は何度もペンキを塗り替えなきゃいけないので、手入れは大変。古くなるとボロボロ壊れるんですよ。私がジョージアで住んでいた家も開かなくてグッと力を入れたらバラッと(笑)。だからリフォームで樹脂窓に交換するのです。同時にガラスも単板からペアに変えます。
―――リフォームが市場の6割ということはサッシの材質は樹脂が多いのですか。
市場の50%は樹脂で、次が木製。アルミは10%しかありません。それと面白いのはアメリカの窓は、日本のような引き戸と違って、上げ下げ式がほとんどで70%を占めています。
―――最近アメリカのリフォーム会社500社ランキングを調べたところ、取り扱い工事のリプレイスメント部門のトップが窓専門会社でした。
窓のリプレイスメント専門業者は多いですね。ホーム・デポのような大規模店舗でも安い窓を置いているんです。樹脂窓のトップメーカーも、自社ブランドではなく、ホーム・デポ用のブランドをわざわざ作って出していました。また、アメリカでは小さいメーカーやビルダーさんが多いですから、ディストリビューターがありとあらゆる商材を集めて並べています。こういう流通店の規模の大きい会社が配送もやるし、木製サッシなんて自分たちでも作ってしまう。
1兆円の米国窓市場
―――市場規模は。また窓メーカーにはどんな会社がありますか。
まずアメリカの市場規模ですが、昔試算したことがありまして、当時大体1兆円でした。メーカー数は450社くらい。 大手は「ジェルドウェン」、「アンダーセン」、「メソナイト」、「ペラ」などで、上位2社は日本円にして2000〜3000億円の売上高です。
―――それなら御社と同じくらいの規模では。
ウチはエクステリアとかを入れて、住宅用で2150億円くらいです。欧州ではドイツの「シューコー」が有名です。ルフトハンザが飛んでいるところは世界中で展開しています(笑)。
―――樹脂窓メーカーは。
アメリカでは「シルバーライン」。ここはアンダーセンの子会社。あとは樹脂窓リフォーム専用のゴレルという会社もあります。
―――なぜそれだけ多くのメーカーがあるんでしょうか。
日本のアルミサッシの場合は、部材から何から何まで全部作りますよね。アルミは設備が必要ですから何社もできません。木なら簡単だし、樹脂窓だってバー材を買って作ってます。
―――欧米では1兆円市場の6割がリフォームとのことですが、日本の窓リフォームはおそらく全体の1割以下だと思います。なぜこうも違うのでしょうか。
日本の住宅用窓市場は5000億〜6000億円でしょうか。そのうちリフォーム向けはせいぜい5%。アメリカの場合で言えば、使用価値とともに資産価値が上がるからです。アメリカの中古住宅は高く売れますから、高く売るために投資としてリフォームする。アメリカ人は所得が増えれば当たり前のように家を変えていきますからね。
―――しかも、そのリフォーム提案で大きな比重を占めるのが窓というわけですね。
先程も言いましたように、アメリカではリフォームでは施主が窓を選びます。リフォームによって住まいの資産価値を高めることが根付いており、また、窓メーカーもそのために高技術、高付加価値商品を訴求しているわけです。

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