住友林業 市川晃 代表取締役社長
国内トップシェアの木材建材流通会社であり、「木」にこだわったハウスメーカーとしての顔も持つ住友林業(本社・東京都千代田区)。住宅産業がフローからストックへと大きな転換期にある中、市川晃社長は住宅ストック事業に力を入れると意気込む。
新築かリフォームか「最大の価値を提供」
―――昨年の11月に行われた中間決算業績説明会の中で、将来の住宅事業環境について3つの予測を発表されています。1つは、「ストック市場の拡大」、2つ目が「海外市場の拡大」、そしてもう1つが「国内新築住宅市場の縮小」。日本社会の変化とともに、住宅産業にもパラダイムシフトが起きています。このような状況の中、住宅会社の役割も変わり、新たなビジネスモデルが求められてきています。そこで、まずお聞きしたいのが、ストック市場での取り組み。リフォーム分野で「早期に1000億円を目指す」と既に発表されていますが、具体的にはいつ、この計画を達成する考えでしょうか。
グループの住友林業ホームテックがメーンとしてリフォーム事業を担当しており、前期売上高は約500億円になります。今期の計画は約550億円になりますが、これまでおよそ年率15%で伸びてきています。その割合でいけば5年以内には1000億円。人も拠点も経営資源を投入していますので、これくらいのスピードでいかなければなりません。
―――増収を続けている要因をどのように分析していますか。
1つの要因は新築OBのメンテナンス部門が住友林業からホームテックに移管されて人が増えたこと。今は約1470名体制です。これまではOBのリフォーム割合が少なかったのですが、この部分が一般顧客の伸びよりも大きい。まだまだ伸ばせると思います。
―――ストック分野をより強化するために、今年の4月に組織体制を一新されています。リフォーム、リノベーション、不動産仲介、不動産管理といったそれぞれの事業を「ストック住宅事業」の下に集約しています。
組織全体の話をしますと、人事管理、資材部、技術開発、商品開発といった本社機能は、新築分野もストック分野も全体を見られるようになっています。現場から上がってくるニーズや技術情報を捉えて、それぞれにフィードバックできます。今までは縦割りの構造でしたが、まずは本社部門が情報を共有して、現場サイドにスムーズに落としていけるようになりました。
―――具体的にはどのような事業間連携を図るのでしょうか。
1つの例を挙げますと、新築展示場にはホームテックの社員も配置し、リフォーム情報の提供ができるようにしています。来場される方は、新築を考えている方はもちろんですが、リフォームにしようか迷っている方もいます。そのようなニーズに対応するため、組織体制を変えています。
―――国が発表した「中古住宅・リフォームトータルプラン」では、中古住宅流通・リフォーム市場を2020年に倍増させるという計画が打ち出されています。住友林業グループでは、不動産仲介事業も手掛けられていますが、どのような強化を図っていきますか。
リフォーム事業との相乗効果があると考えています。ストックの価値が高まれば流動化が始まります。その流動化に対応できるのは仲介事業を手掛ける住友林業ホームサービスです。流通ネットワークを使って、リノベーションした建物を販売することもできます。今後はリフォームした物件の家歴が明確になってくると、さらに流通しやすくなるでしょう。事業間連携については、もっともっと早く良くしていきたい。新築・建て替えか、それともリフォーム・リノベーションなのか。どれが最大の付加価値なのか、トータルなソリューションを提供していきたい。

住友林業は新築分野で、スマートハウス「Smart Solabo(スマートソラボ)」を展開している。特徴である木の家をベースに、太陽光発電システムや蓄電池システム、V2H(ビークル トゥ ホーム)システムなど環境配慮機器を取り揃えている。
太陽光よりも「まずハード面の性能向上を」
―――新築分野では「スマートハウス」がトレンドになっていますが、それをリフォーム分野にも応用しようという動きが各ハウスメーカーに見られます。
私どもも2012年4月から「スマートリフォレスト」というリフォーム提案をスタートしています。これは光熱費ゼロを目指す省エネリフォームですが、まず初めに耐震性・断熱性の高い家にしようというのがコンセプト。住宅の基本性能を高めることが前提にあり、それから太陽光発電システム、蓄電池、燃料電池、HEMSといったものを組み合わせていきます。
―――単に太陽光を付けるといったものではないということですね。
まずは家全体をきちっと診断して、長く使用できる健康体にするということが重要。リフォームという言葉の持つ意味の幅は広いですが、私どもが推進しているリフォームというものは、もちろん修繕、機器交換といったものもありますが、住まいそのものを見つめ直してみませんかということです。
―――国内の住宅ストックのうち、旧耐震の住宅は1100万戸以上あるとされ、断熱性の低い住宅も多いです。特に古い木造住宅はさまざまな課題を抱えており、これらをいかに再生していくかがこれからの住宅業界のテーマでもあります。
今住まわれている家にどのように価値を付けて生かしていくかが課題です。私どものグループとしては、原則としてまずこの「スマートリフォレスト」を提案していこうというスタンスです。
―――本誌ではリフォームによって既存住宅の性能を高めて、安心・安全、健康的な暮らしが実現できるストックを増やすことを目指しています。既存住宅のスマート化は歓迎すべきトレンドなのですが、ただ1つ懸念しているのが、単に太陽光を搭載すればそれで良いというスタンスの企業が意外と多いのではないかということ。住宅そのものの断熱性能を高めない限りは、省エネにはなりません。
リフォームの本質とは何かといえば、単にモノの物販ではなく、診断ということから入るべきだと思うんです。ライフスタイルをお聞きして、何を優先したリフォームが必要なのかを判断して総合的に提案をする。予算の都合で部分的なリフォームになるケースは当然あります。しかし、全体的な診断をして、まずはどのような形で価値を高められるかという総合的な判断をお伝えすることが使命だと思っています。
―――既存住宅の省エネ化は住宅業界全体の重要な課題の1つですが、メリットが消費者に伝わりにくいためか、まだ十分には進んでいません。断熱化することで健康面にプラスになるという研究も進んできていますので、啓蒙活動がカギとなります。
国全体でどう生活者の健康を守るのかということを考えた場合、住宅というのは非常に大切な役割を果たしています。それに気付いてもらえるように伝えていかなければなりません。
―――ストック住宅事業の中に新しく「リノベーション事業部」が立ち上がりましたが、これはどのような事業でしょうか。
築年数の古いマンションや使われていない寮、社宅を買い取って一棟リノベーションするものです。この部分は新しい市場。今後伸びていくと思います。これからはスクラップアンドビルドから、良いものは残して、価値を上げるというアプローチが盛んになってきます。それが究極の省エネ。スクラップアンドビルドで省エネの家を建てても、そこに関わるエネルギーは大きなものです。
―――住友林業ホームテックでは「旧家リフォーム」も推進されています。
建築基準法ができる以前の旧家を対象としたリフォームです。もう手に入らない木が使われた家が数多くあり、それらを大切に残しながらも、今のライフスタイルに合うように再生します。このノウハウをリノベーション事業にも導入していきます。公民館など公共施設が木の香りの豊かな集会場に再生されるような事例もこれから出てくるかもしれません。
中国で高評価、「木造は暖かい」
――ところで今期重点施策の1つに「海外事業」を挙げ、「10年後に経常利益の3分の1を海外で稼ぎたい」との発言もされています。対象国の1つである中国では反日感情の高まりに伴う不買運動が起きていますが、そのリスクについてどう見ていますか。
中国については、尖閣問題というよりも、不動産投資そのものが規制という目で見られています。中国での商売相手はデベロッパー。日本のように、1件1件のお客さんがメーカーから住宅を買うというよりも、開発地を買うという形。デベとの交渉が事業の中心になっています。1つの用地に木造住宅を60棟ほど建てたケースもありましたが、そのデベが少しスローダウンしています。私どもも慎重になってはいますが、撤退もしていませんし、計画の下方修正もしていません。ただし、伸びは思ったよりも遅いと感じています。
――中国で木造戸建て住宅はどのような評価を受けているのでしょうか。
北京や上海などの寒くなる地域で、「木造は暖かい」という声を頂いております。中国はブリックスとコンクリ住宅なため暖房しても壁や床が冷たい。暖房で空気が暖かくなっても、体感として寒い。
――室内の温熱環境は暮らしやすさに直結しますので、そのような価値の理解が進めば潜在ニーズを掘り起こせそうです。米国での販売進捗はいかがでしょう。
今年は250戸くらい。景気が底を打ち始めたので、当初よりも売れ行きがよく、もっと伸ばしていけそうです。

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