ジャニス工業 山川芳範 社長
「トイレのフチ上を限界までなくせないか」。衛生陶器メーカーのジャニス工業(愛知県常滑市)は、そんな考えから商品開発に着手し、「フロントスリム」という従来にはないシルエットのトイレを作り出した。発売から5年、今ではこの「フロントスリム」を全機種に標準搭載し、他社との差別化に成功している。同社の山川芳範社長に開発の経緯などを取材した。
―――「フロントスリム」を最初見たときはフチ部分をぎりぎりまで薄くした斬新なフォルムに驚きました。どのようなきっかけで開発することになったのですか。
従来、ジャニス工業は公団住宅などブランドが必要ないところで生計を立てていました。それがバブルの崩壊後、市場が段々と縮小し、エンドユーザーにも目を向けないと事業が成り立たなくなってきました。何かジャニス工業としてオリジナル商品を作る必要があるなと。ただ当時は製品を安く大量に作るのは得意でしたが、いいものを作るスタッフがいなかったのです。そこで、外部からデザイナーを入れ、何か特徴があるものとして、フロントスリムを作り出しました。
―――確かフチなしは2002年にTOTOが発売したのが最初ですので、御社が発売された5年前にはかなり出回っていたのではないですか。フチなしは温水洗浄便座と同じく、トイレ交換需要を掘り起こす画期的なアイデアでした。
そうです。開発した時は、市場でグレードが低いものでもフチなしが採用されていました。そこで当時流通していたもの以上の究極のフチなしができないかと考えたのです。イメージは男性用の小便器の先端部分です。ああいった形ができるなら実現できるだろうと。しかし最初は試作しても流した水がはみ出てしまうOBばかりでした(笑)。
―――フロントスリムの先端部分はリムと呼ばれる 返し が全くないので、確かに水をはみ出さないようにすることは難しそうですね。各メーカーで商品開発の経緯を聞くと長いもので数年の歳月がかかっています。
1年ぐらいの間に5回のモデルチェンジをして完成しました。最終的には水を通常以上の9リットルまで増やし、それを加圧して流しても飛び出ないことを確認して、世の中に出しました。
―――ただ、どうしても先が細いデザインなので、強度が弱いのでは、と心配になります。
完成した当初は営業から「輸送中に割れるのでは」と心配する声が出ました。先端部分の厚みは中が空洞になっている周辺部分の8㎜よりも厚い10㎜でしたが、瞬間の衝撃に耐えられるのかはわからなかったのです。そこで実際に輸送してみたところ、結果は問題なく、2007年に発売してから1台も輸送中や使用中に割れたという話は出ていません。
―――今はすべての機種にフロントスリムを標準搭載していますね。
スタンダード品は価格競争になるので、最初中級グレードである「ココクリン」に付けてから順番にフロントスリムにしていき、昨年やっとタンクレスまですべての機種に採用できたところです。それと、スマートクリンというタンクレスタイプはもう1つ上を目指そうと、全周フチがないタイプにしました。
―――全周フチなしですか。それはまた全く新しい概念ですね。今まではフチなしといっても水が出る部分などは覆いかぶさるような形状でした。
リムが全くないので便器の真上から見ると、見えないところが全くない形状になっています。
▲全周フチなしのトイレ「スマートクリン」

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