匠工房 加賀爪宏介 社長
キーワードは"住環境改善検討者"。滋賀県の匠工房(滋賀県野洲市)は、顧客の多様な悩みを住まいのプロとして、解決に導く企業構築を進めてきた。もともとリフォームだけであった事業領域を、不動産、新築へと3つに拡大。前期売り上げ(8月決算)は前年度比33%増の24億円(予定)と、連続での2ケタ増収だった。地方都市で成長を続ける同社のビジネスモデルについて加賀爪宏介社長に話を聞いた。
消費者の悩みを解決
―― もともとリフォーム会社であった御社が不動産、新築まで扱うことになった経緯を教えてください。
リフォーム会社、不動産会社を比べると、会社の色どころか性別が異なるというくらい違いがある。さらに、新築会社を見ると、これまた違う。でも消費者と会話をすると意外とこの3つのカテゴリーを分けて考えていなかったのです。実は、新築、不動産と選ぶのはお客さんにとっては第2段階で、第1段階に「住まいの悩みをどうしよう」があり、解決してくれる会社を探している。
消費者の方は、住まいの知識が不足しているので、例えば自ら「この悩みを解決してくれるのはリフォームじゃないか」と、リフォーム屋さんに電話していることが分かったのです。
――つまり、実際は、悩みを解決する企業を間違っていることもあるということですね。
それで僕らは、3つの業種選びをお客さんに任せず、第1段階の仕事をすることをコンセプトに、「住環境改善検討者」という言葉を使いだしました。例えばリフォーム会社ですと、リフォームしたいと問い合わせが入ったら、たぶん10社中9社は「どこをリフォームしたいのですか」と聞きます。でも僕らは「なぜリフォームするのですか」と聞く。それが一番重要。
予算400万円で水まわり全部の交換とバリアフリーもとなると、リフォーム会社だとできるわけがないという話になりますよね。65歳で仕事もしていなければ、たぶんローンも無理。すると顧客にはならないという選択肢になってしまう。でも僕らの場合は、その家が駅近で土地に価値があったら売却し、郊外でも病院や買い物の便がいい中古にリフォームをして悩みを解決できるのです。
――ただ、不動産、新築まで扱うのは理想論で、スキルの構築が相当難しいと思います。どのように実現したのですか。
特にリフォームや建築は経験値がスキルになっていくと思います。だから知識や経験は入社したばかりの段階でいってもしょうがない。僕らの戦場は対峙しているお客さんとの営業ですから、その時の武器、トークに注目しました。トークはスクリプトをしっかりと作り上げ金太郎飴のように誰でも同じ内容をしゃべれるようにすれば、スキルは一定まで上げられます。
――つまり、トーク力向上を徹底したわけですね。
ロープレ同好会などを会社で作り、強制的ではなく行いました。昔の営業会社のようなロープレではなく、結構面白いものを新卒や中途の子が集まって夜にやる。1時間、2時間とやってもフィードバックできませんから「リフォーム、初回面談」とテーマを決めて15分などと区切り、月に3、4回行っています。
――新卒者向けにも同じ内容ですか。
新卒者には200時間カリキュラムという研修も行っています。4月から8月末までの5カ月間に1週間に2日、1日5時間の研修をずっと続ける。当初は、研修機関がやっているような宅建業法の説明や建設用語の説明をやりかけたんですが、案の定新卒が退屈な顔をする。こりゃいかんと、超気合いが入った実演に近いロールプレイングを見せたんです。彼らは営業職で入っていますから営業をしたい、建築用語を覚えたいのではなく営業を覚えたい。だからすごくロープレに興味があり、「すごい」となった。それを明確に細分化し、フロントトークからクロージングまで1つ1つのセクションで、他社とうちの違いや、なぜそうしているかの理由を教えます。「これとこれでは顧客の喜び方が全然違う」などと。そして、セクションごとに話をしていると、この用語は覚えなくてはならないという話にもなる。
1案件に担当者4人
―― それで、人材力を高め、リフォーム、不動産、新築に一貫対応するのですね。加えて御社では、富裕層やコストを重視する方など、対象層別の提案も行っていると聞きました。
実は発展途上中なのですが、最初に着手したのは、リフォプラスという約3年前に始めた高級志向、高いサービスを求めている方、向けの提案です。まず、アフターサービスではなくビフォアサービス、つまり事前説明を強化しました。ここは顧客満足にもなる。僕はリフォーム業界で1番レベルが低いのはこの部分だと思っているんです。クレームの経験が事前説明のすごいヒントで、例えばお風呂工事などのイレギュラーの1つ1つが事前説明の項目になる。
その中で確率論上ベスト10か20は重要事項を説明する部分になるだろうと考えました。まだ完璧にはできていませんが、今は通常リフォームでも事前説明を取り入れています。加えて、リフォプラスは住宅診断を行いリフォームすべきなのか、何年住むかで
躯体にどこまで手を入れるのか等の説明をする点を打ち出しました。あとは1つの現場4人体制です。
――4人もつくのですか(笑)。
そうです。3人だとたまにあるじゃないですか。だから営業、施工管理、設計、営業サポートの4人です。
――このリフォプラスはプラス料金にしているのですか。
粗利が5%高くなります。規模でいうと大方全面改装をする方が選択しますね。あと、うちの営業マンは、結構ファイナンスに強いんですよ。娘さんの実家を婿がリフォームして住宅ローンを組む際、登記をどうするかなど、通常のリフォーム会社は答えられないですよね。リフォプラスではそうした部分などの説明も価値として見てくれていると思います。
シェア拡大に向け新型店
――今後の展開は。
ちょっと話が変わりますが、この野洲、かなり田舎ですよね。この店舗単体でどのくらいの売り上げがあると思います。
――全体で24億円ですから、3億くらいですか。
実は半分あります。そして、この野洲が匠工房の始まりなのですが、不動産の地域シェア率が50%を超えるのです。

野洲店だけで全体売り上げの約半分を計上
――失礼ながらこの野洲で12億円とは、信じられないです。不動産もダントツですね。
そうです。でもリフォームはシェアを取れている実感がないんです。だいたい滋賀全体の市場規模を550億~650億円とみているのですが、商圏24万世帯の滋賀の南でいうとたぶん320億円ぐらい。シェアは3~5%しかないと思います。これを上げたいなと、水まわり専門店のリライトを3月に出したのです。
――コストを安くした専門店でシェアを取る構想のわけだ。
コンセプトを変えて、店舗の名前も変える。今回は既存店があるエリアとは違う立地ですが、後々は僕らの今展開しているエリアにチラシを混同し、母数としてシェアを上げられるのではと決断しました。
――コンセプトは格安航空券のピーチを参考にしたのですよね。
ローコストというだけではなく、リフォームをやったことがない、一次取得者層に刺さるようなセンスを作ろうと、ピーチが良いなと参考にしました。AKBとコラボしたり、ピンクの制服が女子受けしたり、センスもあるなと。こちらも制服をピンクのポロシャツにしました(笑)。
――潜在需要を掘り起こす店舗になるわけですか。
はい。あと10月には、賃貸仲介を本格的に行います。この野洲の店舗の半径1キロぐらいに1000戸ほどのファミリー賃貸があるのですが、うちにも部屋を探している人が来るんですよ。なぜ賃貸を借りるかといったら家が買えないと思っているからです。でもライフプランニングして聞くと賃貸に住む理由はない。2年住んで200万円落とすのであれば、買うメリットがこれだけあると明確に出すと結構購入するのです。
10組集めれば2割ぐらいの購入率です。残りの8割も僕は5割ぐらいが2年ないし4年更新の時期に家を買うことを考えます。
――一次取得者層を取り込むのですね。
この店舗でオープンするのですが、屋号が「カリタイオウチ」。今ある6店舗に順番に取り入れていこうと思っています。
――これで、若い方から、60代ぐらいまでサービスがそろったと思うのですが、最終的には、高齢者向けサービスも展開しますか。
現在、社員は80人で平均年齢は30歳と若いですから、今は尽力しませんが、後々は間違いなくやります。ゆりかごから墓場までです。

所在地 * 滋賀県野洲市 / 売上 24億円(リフォーム11億円、新築10億円、不動産3億円、その他)
拠点数 * 6ヵ所 / リフォーム粗利率 * 35%
この記事の関連キーワード : サービス バリアフリー リフォーム 中古 ロープレ ロールプレイング 不動産 中古 中古住宅 住環境 匠工房 地方 改善 新卒 新築 水まわり 滋賀県野洲市 研修 説明 顧客満足 高齢者

最新記事
この記事を読んでいる方は、こんな記事を読んでいます。
- 1655号(2025/07/07発行)17面
- 1653号(2025/06/16発行)12面
- 1651号(2025/06/02発行)12面
- 1649号(2025/05/19発行)7面
- 1647号(2025/05/05発行)15面