住宅ストック市場の新シナリオ13
keyword 13◆ 地方創生
高齢化と人口減少で、急速に衰退しつつある地方自治体。そんな中、注目されているのが、空き家や既存建物の改修を利用した地域の活性化。通常の不動産開発より低コストで済むのみならず、固有の既存建物という「ここにしかない」資源を観光やコミュニティースポットとすることができる。
築100年を超える古民家を再生した篠山城下町ホテルNIPPONIAの室内
きっかけは山中の限界集落
大阪駅から電車とバスで1時間半。兵庫県の中東部に位置する篠山(ささやま)市が変わりつつある。その立役者となっているのが、地元に籍を置く一般社団法人ノオト。古い空き家を活用したホテル、商店を市内で60棟手掛け、町の再生に尽力している。
「あそこの酒屋さん、私たちがリフォームしたんですよ。こっちの空き家は、もうじき工事が入ります」
同社の代表理事を務める藤原岳史さんは、そう話ながら篠山の町を案内してくれた。
篠山市は、古くから篠山城の城下町として栄え、現代では関西の有名観光地の1つだった。ただ最近では、アクセスの良い同県の姫路や尼崎と比べ、観光客は減少傾向にあった。
同社がこの町に関わり始めたのは、2010年。市内の山中にある丸山集落について同市の副市長から相談があった。当時、この集落は12世帯のうち7世帯が空き家。消滅に向かう限界集落だった。
これに対し同社が行ったのが空き家になった古民家をホテルとしてリフォームし、観光客を呼び込むことだった。まず持ち主から物件を借り上げ、金融機関などから改修資金を調達。古民家の趣を残したままリフォームし、地域住民がNPO法人を立ち上げ、運営を開始した。
「田舎を盛り上げるには、新しくランドマーク的なものを作らないと、と考える人は多い。でも古民家は、すでにそこにあるものじゃないですか。それを使って人を呼べるのって、すごく大きな古民家の強み」(藤原代表理事)
この取り組みは成功した。観光客を呼び込むだけでなく、元住民が再びこの地に戻って人口が増える、放棄されていた農耕地が利用されるようになるなど、集落の問題が少しずつ解消された。
このような評判を聞き付け、篠山城下町の空き家所有者などから不動産活用の相談が舞い込み始め、現在に至っている。
数千万円掛けて再生された古民家の1つ①改装前の様子。ガラクタがそのまま残された空き家状態だった
②ホテルの外観
③館内のレストランは宿泊客以外も利用可能
開業したいオーナー殺到
同社が空き家となっている古民家を利活用するに当たって、よく用いる手法が丸山集落でも使った「サブリース方式」。放置されボロボロになった古い空き家を、固定資産税分のみ負担し、所有者から無償で15年間借り上げる。そして銀行やファンド、場合によっては地域の自治会長や地主などから改修資金を集める。そしてリフォームした上で、店舗を運営する事業者を募集する。
事業者募集を行うのも同社。口コミで評判が広がり、リフォームされた古民家で店を開業したい店舗オーナーが、順番待ち状態にある。
この取り組みが軌道に乗り始めてきた時、次の課題となったのが、「1つ1つの建物だけでなく、この町全体を1つのコンテンツとして魅力的に見せるにはどうすればいいか」ということ。そこで思い付いたのが、「町をホテルとする」構想。丸山集落と同様に古い空き家を宿泊施設として再生し、これを市内に複数点在させるというものだった。
「通常、観光地に宿泊施設を作るとなったら、50室の建物を建てるとか、大規模な開発が必要になる。でもこの町では、そんなことは資金的にも難しい。そこで古民家を1棟ずつリフォームしながら、少しずつ部屋数を増やすという手段になった」(藤原代表理事)
器とくらしの道具を扱う人気店「ハクトヤ」
①店内の様子。平日にも関わらず、店内は人でいっぱい②店主の一瀬裕子さん。以前神戸で仕事をしていた時よりも、人とのつながりや企業からのオファーが増えたと話す
2キロの寄り道も楽しい
2015年10月にオープンした、5棟12室からなるこの「篠山城下町ホテルNIPPONIA」事業は、観光客に新鮮な驚きを与える精緻な仕掛けが施されている。
宿泊客がまず訪れるのは、篠山のメーンストリート「二階町」にある「ONAE」。銀行家の邸宅だった360坪の広い敷地には、フロント、レストラン、さらに日本庭園を臨む客室5室がある。
他の棟の客室を予約している宿泊客は、そこまで徒歩で移動することになる。河原町にある「NOZI」に行く場合、距離はおよそ2キロ。この決して短くない道中では、同社がプロデュースした数々のカフェ、レストラン、雑貨店などに出くわす。寄り道すると、あっという間に2、3時間が過ぎてしまう。
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