マンション計画修繕施工協会 坂倉徹会長
約6000億円の市場規模と言われ、新規参入業者が相次ぐマンションの大規模改修事業。活況の裏で、ルールが明確化されていない同業界は、表面化していない様々な問題点を抱えている。マンション大規模改修の先駆者サカクラ(神奈川県横浜市)の社長であり、マンション計画修繕施工協会の会長を務める坂倉徹氏に業界の課題について聞いた。(聞き手・本紙社長・加覧光次郎)
"みかじめ料"を求める管理会社
――サカクラさんはマンション改修のパイオニアです。今、業界の課題だと思っていることはありますか。
これから残りの人生を賭けて整理しなければいけないと思っているんだけども、建設業法違反の管理会社っていうのも随分あるんですよ。大規模改修を受注はしているけど、技術者がいないというケースがある。本来は請け負い金額6000万円以上の工事では1級施工管理技士(監理技術者)が現場に常駐するという決まりがあるんです。
大手の管理会社ってのは、ルールを守っていて、自分のところでは工事を請けない。要するに、業者の監理に特化して、工事は我々のような専門の会社に発注するんです。ところが、小さい管理会社の中には、有資格者がいないにもかかわらず、自分のところで工事も取るところがある。そして、仕事を専門業者に丸投げしちゃう。自分のところの人間が現場に常駐して監理することもない。
実は、建設業法には、発注者(管理組合)が認めれば丸投げでもいい場合もあります。
――そんな抜け道があるんですか。
ええ。管理組合が認めれば、丸投げしてもいいっていうんだけど、そんなの認める管理組合なんか、ほとんどないですよ、普通は。
――まあ、知らないか、伝えてないから、そんなものかなって思っているんでしょうね。
そういうことなんです。騙してるようなもんなんですよ、ある意味ね。それじゃあ口銭を取ってるのと一緒じゃないですか。
――その管理会社は工事業者に工事を投げるだけで、マージンを取っているわけですね。
業務を行っていない管理会社が5%だか1割だかをはねる。それは、あんまり正常な形とは言えない。ましてやですよ、これは大手の管理会社にもあることなんですが、自分は大規模修繕にまったく絡んでいないのに、我々のような工事会社に対して「手数料として契約金額の3%を裏で寄越せ」って言ってくることもあるんですよ。
――それは、工事会社が管理組合と契約しているにもかかわらずにですか。要するにキックバック。みかじめ料みたいなものですね。
そりゃあ、私はもう全然納得いかなくて。だから、「確かに、あなたが管理しているマンションで工事をやる。修繕のための会議を招集したり、書類を作ったりとか煩わしいことがあるんであれば、それはあなたたちが管理組合に言って、正式に金をもらったらどうだ。我々からせびる話ではないだろう」と私は言うんですよ。
だけども、「どうしてマージンを貰うのがいけないの?」っていうところもあるんです。大手の管理会社でも。それで、私は管理会社の社長に直接言ってるんです。「あんたの番頭がこういうふうに言ってきてるんだけど、そんな馬鹿な話はないだろう。そういう費用が発生するんだったら、管理組合に掛け合って金貰うべきじゃないのか。我々が負担するのは筋が違うだろう」と。でも、分かってない。それで、「じゃあ、そのことを管理組合に話していいのか」って言うと、「そりゃあ、まずいだろう」って言うんですよ。「ダメだって思うようなことを何でうちに言うんだ」って私は言うんだけど。
リベート前提の入札価格
それからもう1つ。大規模修繕工事が行われる際に、管理組合が一番初めに接触するのは、コンサルや設計事務所なんです。それが3社とか5社とかから、見積もりを取るわけですよ。それがめっちゃめちゃな見積もりなんです。
――めっちゃめちゃというのは。
例えば、設計・監理料が本来なら1000万円かかるとするじゃないですか。なのに、200万とか300万とかの見積もりを出して、ダンピング競争をしてくる。
――200万?それは200万安いとかではなく、1000万円のところを200万円でできますって言うんですか。それはあり得ないですね。
あり得ないでしょ。700万、800万足りないじゃないですか。でも、工事業者から裏でお金を貰うから十分元が取れるんです。コンサルは工事業者に、「取れるように仕組んでやるから、5%払え」とか、「7%払えと」とか、そういう依頼をするわけですよ。それで、自分ところの息がかかった業者だけ集めて、「この仕事はA社。だから、皆、A社より高く入れろ」ってやっちゃうわけですよ。仮に2億の工事だとして、5%って言ったら1000万円ですよ。それを貰えば勘定が合っちゃうわけですよ。そんなのは許されないって言ってんの。
――200万円で受注しちゃうんですか、その会社は。
しちゃう。管理組合も素人の集まりだから。
――5分の1ってあり得ないじゃないですか。
あり得ないんだけど、知らない人の集まりだったら、「安けりゃ安い方でいいじゃないか」って言って、何が正しいか分かんないから、それでやっちゃうってケースもあるんですよ。
――そういうコンサル会社って、結構あるんですか。
ある。それらが工事業者とつるんで、それをやっている。結局はね、裏でグレーな、あるいはブラックな行為を行いながら、商売をやっていくっていうのは、これはもう全部とは言わないけれども、何割かの仕事がそういう形で行われているんですよ。
私は国交省に言ってるんですよ。「こういうことやってて、裏でリベートを貰っているやつがたくさんいる。ましてや、設計事務所でもない、業者でもない、マンション管理士でもない、そういうのにもかかわらず、ブローカーみたいなやつが、全部を仕切っちゃって、それで口銭取るあるいは、施工業者が、設計コンサル業務をやる別会社を作って、そこがどんどん営業を成功させて、自分のところが仕事を取れるようにするとか。そういうようなパターンもあるんだ」と。
「これをちゃんとした仕事にしないと。不信感ばっかり芽生えちゃって、この業種に対する信頼感が無くなっていっちゃうんで、まじめにやってる業者が非常に迷惑する。何とかならないのかと。何とか法律で押さえつける方法はありませんか」と。
――コンサルには資格等は必要ないんですか。
設計・監理業務には、資格が要らないんですよ。変な話、アルバイトが管理しててもいい。その辺も問題がある。施工する人間にだけ、資格ばっかり言うんですよ。しかも、コンサルの中には自分の勧める会社で工事しないんだったら、建物監理しないなんて居直っちゃう会社もあるんだよ。「こんな業者、うちじゃ責任持てませんから」って。そこまでの金だけ貰ってやめちゃう。
――要するに「A社がうちはお勧めだ」と。「A社じゃなくてB社にするんなら、もう、うちは引く」って言うんですね。で、そこまでの金を貰う。
そこまでの設計費だけは貰う。監理費はもちろん決まってないから貰えないけれども。組合から反論があった時のために、弁護士までちゃんとくっ付いてやってますよ。
――なかなかのものですね。
いろんなこと考えてやってますよ。だけど、許されないね。はっきり言って。
うちは私が会長やってて、そういう業界を正しくしていかないといけないってことで動くじゃないですか。で、いろんなところで発言するでしょ。うちなんか、仕事来やしないよ。
――嫌われ者ですか。
嫌われ者ですよ。だけど、私が手を緩めちゃったら、業界ダメになっちゃうもん。だから、もう、やるだけやるんですよ。まだ途中だけど、徹底的にやる。
ただ私と同じ考えの管理会社だっています。
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