Tractable、AIで保険金を自動算出
2014年に創業した英国・ロンドン発のAI企業Tractable(トラクタブル)。世界トップクラスの画像に映るモノを判別する画像認識AI(人工知能)技術を用い、自然災害時の保険金支払い期間を短縮するスキームを開発。すでに三井住友海上火災保険ならびにあいおいニッセイ同和損害保険と連携し、サービスの提供を進めている。同社(東京都千代田区)の堀田翼日本カントリーマネージャーと丸山倫弘シニアカスタマーサクセスマネージャーに、サービスの概要と意義、今後の展開などについて聞いた。
自然災害時の早期対応を実現
右:堀田翼氏 日本カントリーマネージャー
左:丸山倫弘氏 シニアカスタマーサクセスマネージャー
自然災害が頻発する日本だからこそ
──御社は2021年に金融サービス向け画像認識AI領域で世界初のユニコーン企業になるなど注目されています。ただ、建築分野のサービスは日本で生まれたと伺いました。
堀田 そうなんです。開発はロンドンのテクノロジーのメンバーが大きく関わっていますが、建築分野で展開しているマーケットは、現状日本のみ。理由としては、海外と比べて自然災害が頻発していて修理見積もりをする事業者の数が多いのと、人手不足や高齢化という大きな社会課題があるからです。
具体的なサービス内容は、台風の被災後に、保険代理店や契約者が自身のスマホで損害箇所を撮影し、その画像をもとにAIと弊社のチェックで損害額を自動算出するものです。これまで、見積もり作成に数週間、協定も含めるとさらに数週間かかっていたのが、数日で保険金を確定してお支払いできます。
──確かにこれまでは保険金支払いまでのスパンが長く、応急措置でしのぐケースが多くみられました。
堀田 これまで、いくつか成果と呼べるものが出ており、2022年の台風14号の発生時には、AI査定をして最短30分以内に支払う保険金が確定したケースもあります。これまでは、どんなに早くても数週間かかっていました。
丸山 ただし、水害に関しては、保険会社が独自の支払いルールを採用しており、現状は活用しづらいため、今回のソリューションは風災・雪災、雹災と物体衝突全般が対象です。
スマホで撮影して送付するだけ
──具体的なサービス利用の流れを教えてください。
丸山 最初に保険加入者から被害を保険会社に連絡してもらい、その後、保険会社から事故情報入力ページのURLを加入者のスマートフォンにSMSで送ります。受け取ったリンクをタップすると、損傷箇所の撮影ガイドが出てくるので、それに沿って撮影し送っていただくと終了です。
これまでは保険加入者に写真と見積もりを郵送で返信してもらっていたので、そのやり取りに数日はかかっていました。また、数年前の大きな台風では、施工会社の見積もり作成がたまり、半年経っても保険金が支払えないというケースが相当数ありました。AIが自動的に見積もりを作り、Tractable社の鑑定人の資格を持った担当者がその判定が妥当か判断し、必要に応じて修正する弊社のスキームですと、時間短縮が可能になります。
──保険額は、施工会社がマイナスにならない額が算出されると思いますが、近年の資材高騰も随時反映されるのですか。
丸山 自動的には反映されませんが、金額を変えられる仕組みになっています。どの時点で金額を上げるというルールを決めておかないと、部材に関しては結局下請け企業が泣くということにもなるので、そこは保険会社と話し合って決めていく領域だと思います。
──災害時には法外な金額を請求する悪徳事業者も出てきやすいので、目安の金額がわかるのは消費者にとってはすごくありがたいと思います。
堀田 そういった価格の透明性というのは業界の発展にも寄与すると思っています。ただもちろん事業者が損をしない保険金の産出額にすることが基本ですね。
使いやすさで多くのデータ蓄積を
──ところで、画像認識AIを本格的に事業化したのはいつ頃からでしょうか。
堀田 創業3年目の2017年頃で、自動車の傷の判定にAIの技術を使いました。当時は画像をもとにAIが傷を特定できるというレベル。現在は画像から自動車事故の保険金を算出することまででき、日本でも同サービスを展開しています。
──最後に、今後の展望を教えていください。
堀田 ソリューション開発とAI開発を続けていきながら、より多くの契約者さんや代理店さんに使っていただくことが重要です。AI学習の観点でも、多く使っていただくほど、よりよいソリューションを提供できます。今年には、屋根の損傷査定をするスキームもスタートする予定で、技術力だけではなく「使いやすさ」も継続して模索したいです。
(聞き手/報道部長 福田善紀)
スマホのみで簡単保険申請
会社名 | :Tractable |
---|---|
所在地(日本) | :東京都千代田区 |
創業 | :2014年 |
事業内容 | :AIを利用した自動社事故や自然災害からの早期復旧サービス |
この記事の関連キーワード : AI Tractable あいおいニッセイ同和損害保険 インタビュー ロンドン 三井住友海上火災保険 保険金 画像認識 自然災害

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