クラフツメンスクール 仲本純代表理事
「建築職人が輝き続ける新しい文化の創造」を目指して設立された職人学校、一般社団法人クラフツメンスクール(神奈川県横浜市)が来年から本格的に動きだす。職人不足が深刻化する中、同学校では、基本的な仕事の知識・技術のほか、やりがいや意義を訴求。職人の魅力を高めるとともに、将来的には賃金向上も進めていきたい考えだ。代表理事を務める仲本純氏に運営にかける思いを聞いた。
新しい文化の創出を
―――どんな目的で職人学校を創設したのですか。
建築職人が輝き続ける新しい文化の創出をするためです。そして、業界の人材不足の抜本的解決、日本が世界に誇る建築技術の伝承、建築技術の等級制度の確立、建築技術の向上の5つ。ただ、もっとも重要なのは最初に挙げた、建築職人が輝き続けるということですね。
―――今は輝き続けていないということでしょうか。
はい。私も今年48歳になるのですが、働き始めたのはいわゆるバブルの時代です。その頃手っ取り早く稼げたのが建設労働者でした。時給550円、600円の時代に初日から安くても7000円、場合によっては1万円もらえる魅力がありました。しかし、バブルが崩壊し、高賃金という魅力を喪失してしまった。その後、私も経営者となり、それなりの結果を出してきましたが、ふと気づくと自分自身が楽しく仕事をしていない、誇りを持っていなかったのです。魅力的な会社とし、働いている皆にプライドを持ってもらい、輝けるか、そこから変えていかないといけません。
―――意識の改革から取り組むということですね。
ハートがない限り、だめなのです。私の会社はサイディングの施工会社ですが、今年18歳で入った子が2人いまして、彼らは協調性が高くすごく優秀なんです。しかし、育てるだけの器がない。29歳以下の職人は全体の11%ほどしかおらず、圧倒的に50代以上が多い。すると四半世紀のギャップがあり、文化も考え方も違う。
―――若手とベテランの人材をつなぐ中間層が少ないのが問題ですね。
中間層はいないに近いです。昔の見て覚えろという理屈は若い子には通用しません。教えてもらったことを忠実にやるのが、彼らの世代。今いる職人さんたちにそうした若者を預けて育てると、離職率が50%になってしまいます。
―――10年後には2025年問題があります。団塊の世代が75歳になり、大量に引退する。このままの離職率が続けば、若い世代が全く育たない。
すでにぎりぎりの状態です。これまでの教え方では、サイディング工事でいうと1日7000円の給料を彼らが稼ぐようになるには半年から1年もかかっていた。それでは遅い。学校で反復練習をすれば、1カ月で終わる60時間研修で、すぐに自分の人件費ぐらいは稼ぎだせます。
―――これまでは、半年から1年の間は自分の人件費分も稼げてなかったのですね。
稼げていないです。1人親方に2人の若手を付けても、半年間はあがってくる工事量が変わらない。技術職ですし、失敗できないのが大きい。すると体力のある会社しか若手育成はできません。
―――そして、今までは半年、1年の間に離職してしまうということですね。
体を使うきつい仕事なので、やっている意義がなくてはつらいだけですよ。私たちのものづくりの仕事は、社会貢献であるということを大きな声で伝えなくてはいけない。誰からもそれを教わらないので、現場でネガディブな話が出るのです。
―――では、学校ではそうした仕事の意義の部分を学ぶのですね。
そうです。メンタルの部分に加え、マナーや安全について座学で学びます。
―――ただ、職人を抱える各事業者が、新人を学校に送り出す投資をできるかの問題もあるかと思います。
内部理事に社労士の先生がいますので、学校にかかる費用を厚生労働省の助成金で賄おうと考えています。通常は各社で申請する助成金なのですが、手間と時間がかかるので利用できていないケースが多い。申請には教育のカリキュラムを作る必要があるためです。そこで、カリキュラムはクラフツメンスクールに既にありますので、簡単に申請できる環境をつくります。
―――当初は何社ぐらいが参加する予定でしょう。
30~40社ぐらいになると思います。
―――学校自体の運営は授業料だけでは賄えないですよね。
メーカーさんや流通商社さんにもご協力をいただく予定です。彼らも職人問題は避けて通れませんので。実績を積み、将来的には国から助成金が出る職業訓練法人にしていきたいと考えていますが、当初は会員の方などの寄付などで賄う予定です。
成り手を増やすために
―――今後は、職人業界に飛び込んだ方の教育だけではなく、そもそも職人の成り手増加も図らないといけないと思います。そうした活動も行うのですか。
零細工事店は、今まで教育制度を持っていませんでした。クラフツメンスクールに加入し、教育ができる体制ができれば、ハローワークや高校の就職課でもその旨を告知することができます。制度がないと、NTTや日立と付くような有名な会社と求人が並んでいた際、来てくれないですよ。
―――やはりブランド力がある企業は求人が強いですね。
もし、仕事内容が工場での単純作業でも知名度がある会社にいってしまいます。インターネットで例えば、私の経営するガイズカンパニーってどんな会社だと調べてくれても、私の顔写真をみて、『絶対ブラックだ』となりますよ(笑)。それをどう変えていくか。制度を作り、この前、就職説明会で私はこんなことを考えているんだと皆の前で話をしたのですが、それで初めてマッチングができるのです。
―――もっと建築職人の魅力が若者に伝わると成り手が増えますね。
建築職人のドラマなんかが月9で流れるといいですね。今、木こりの映画がありますが、この学校では、マスコミと協力し建築職人がクローズアップされるような働き掛けもやっていきたいです。
―――最初はサイディング職人の育成から始めるとのことですが、今後は業種を増やしていくのですね。
多くはありませんが、各業種の方から既に反応をいただいています。カリキュラムの3分の2は基礎知識とモチベーションに関するものですから、3分の1を作ればあらゆる業種に対応可能です。これからは、関連異業種の方と話し、その部分を構築していきます。
―――リフォーム業界でも多能工をつくる動きが徐々に進んでいますが、そうした多能工の教育もありえますか。
可能性はあります。現状では建築職人は、しょうがなく職人になったというポテンシャルの低い子も多い。そうした子が多能工になれるかといったら未知数です。しかし、この活動が花開き、人気職になれば自ら多能工になりたいという子も出てくると思います。
月100万円の収入も可能
―――先ほど、バブル後は給料が下がっているとの話がありましたが、賃金面の魅力を高める必要もありますね。
ただ、サイディングの業種も職人の単価は下がったのですが、下がったにしろ月100万円稼ぐ人はいます。
―――100万円も稼げるのですか。
平均すると月50万円ぐらいですが、スピードと段取りで可能性がある。100万円までいかなくても頑張れば月70万円ぐらいは稼げます。
―――福利厚生がないにしろ、通常のサラリーマン以上の収入になりますね。
それこそ高卒でどこに就職できるかといったら、難しい面もあるじゃないですか。それを考えると手に職で稼ぐのは全然悪くないと思います。
―――さらに「怖い」といった業界のイメージが払しょくされるといいですね。
そのために親方研修も行います。2日間ぐらいで人材育成、つまり新人を教える側として何をすべきかを親方に教えていきます。
―――保険なども整備されるとさらに良い。
それも、人材育成の補助金を厚労省から取るには必要になります。就業規則から作っていかなくてはいけません。
―――なるほど、若手育成が会社を変えるきっかけにもなるわけですね。
そうです、私たちの業界の底上げが起こるのです。
≪仲本純代表理事プロフィール≫
1966年横浜生まれ。1984年高校卒業後、東南アジアの放浪を経て1986年に極洋興業に就職し、職人の世界に入る。1991年に長女の誕生と共に独立。ガイズカンパニー代表取締役。関東サイディング事業協同組合理事長。日本サイディング協会 監事。NPO法人外装エコロジーシステム 理事長代行。

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