第34回住まいのリフォームコンクール 受賞者に聞く(1)
~施主の想いを形にするプラン作りと完成秘話~
国土交通大臣賞
負の遺産を蘇らせるリノベーション
「IRIYA APARTMENT」
イン・ハウス建築計画 中西 ヒロツグ 氏
「設計の必須アイテムは太さ1.3ミリのシャーペン。思いつく事をガッガッと描いていきます。」
太いシャーペンで次々に思いつくアイデアを描いていく中西氏。消しゴムは使わず描き重ねる。「一度考えたことを振り返るためにも消すことはしません。」という。線の一本一本がひらめきの軌跡である。
「需要に適合しないと建物は蘇らない。まずは地域を知るために歩いてみました」
受賞作品となった「IRIYA APARTMENT」は浅草に程近い、入谷に建つ築40年のオフィスビルのコンバージョン(既存建物の用途を変更し、全面改装を施して再生させること)だ。需要にあわなくなり、長年空室となっていた。図面もなく、また建物が当時の基準法に適合していることを立証する「検査済証」もなく、施主は「壊すしかないのでは」と半ばあきらめていた。いわば「負の遺産」だ。
こうした建物を再生させるには、基本設計の前段階でかなりの労力と費用がかかる。実測調査・面積表の復元・建物強度の調査・確認検査機関との協議・建築時の基準法への法適合調査を行い、既存不適合箇所は現行法に適合。さらには消防法の適合と、その内容は想像を絶するものだ。
中西氏はこの案件を受けた時、まずは周りを歩いてみようと考えた。ハード面で諸問題に適合させたとしても、実際にこの建物が需要に適合しないと建物は蘇らないからだ。
歩いているうちに、アーティストの店が点在することに気が付いた。調べると、台東区がアーティストを集める政策を実施しているという。そこで中西氏は作業場と自宅を兼ねて使え、アーティストに好まれるような間取りの集合住宅がこの地には必要ではないかと考えた。地域のマーケティングの変化に適合する建物へのコンバージョンだ。
コストはかけられないが、逆にそれをデザインに
事務所として使われていた空間に、中西氏は大胆にも、中央にベニヤで囲った「コア」をドンと設置。この中にトイレ以外の水まわりを集中させた。また「コア」が間仕切りの無い部屋にリビング空間と寝室空間を生み出した。
室内には自転車を保管できる大きな土間を。外装はかつて地元で盛んだった「今戸焼」の素焼き鉢をモチーフに塗装
した。この独特のシンプルな間取りとデザインは、アーティストのDIYの発想にもつながったようで、人気を呼び、募集間もなく満室となった。
「建築家の職能は、空間の価値を最大化することにあると考えています」という中西氏の言葉は太いシャーペンのように力強い。
【特集】
もう失敗しない 壁紙提案
―みんなの体験談と実践事例から学ぶ―
PART1 あるある壁紙事件簿集
PART2 営業マン・プランナーたちのお気に入り壁紙
【第2特集】
第34回 住まいのリフォームコンクール
受賞者に聞く 施主の想いを形にするプラン作りと完成秘話
【好評連載】
◎住設リフォームガイド/メガバックス
第13回 システムバスと梁
◎らくらくスケッチ教室
つなぐ 鎌田雅春さん 第5回 パースを描く・後編
◎中古リノベーション入門
第4回 リノベに相応しい不動産選び:総合編 他
リフォームセールスマガジンとは!?
この記事の関連キーワード : DIY イン・ハウス建築計画 リノベーション リフォマガ 住まいのリフォームコンクール 需要
