住宅ストック市場の新シナリオ13
keyword 02◆ コンバージョン
バブル期に建てられた社宅やビルが、20年の賃借の終了とともに市場に流通し出している。今後さらに数が急増していくと予想されるそれらの建物をいかに活用するか。その答えの一つにコンバージョン(用途変更)がある。
ソーシャルアパートメントの外観
コミュニケーション図る住宅
ビルや企業の社宅をリノベーションし、「ソーシャルアパートメント」としてコンバージョンしているのが、グローバルエージェンツ(東京都渋谷区)だ。
同社は2009年に第1号となる蒲田の物件を手掛けて以来、これまで35棟約2000戸を提供している。
「ソーシャルアパートメント」とは、入居者同士が交流できる集合住宅、という意味。同社オリジナルの造語だ。
同社の物件には、マンション内にラウンジを設け、また、キッチンなどの交流スペースを充実。住人同士の自発的なコミュニケーションを誘発するような仕掛けをふんだんにちりばめている。
例えば、今年5月にオープンした「NEIGHBORS二子玉川」では、共用スペースを大きく取っている。その中には、最大15人が着席可能なシアタールーム、24時間自由に使えるワーキングラウンジ、ビリヤード台などが入っている。
「目指すのはSNSのリアル版。既存のネットワークを超えた、様々な人たちとの、国籍・言語を超えた出会いや交流などを生み出していきたい」(山﨑剛社長)
入居者同士の交流を活性化させるラウンジ
ミレニアム世代にヒット
リアルに様々な人とコミュニケーションが取れる同サービスはユーザーに大変人気になっている。事実、35棟全体の入居率は92%と非常に高い。主な入居者は20~30代の男女。性別も半々になっている。
この20~30代はいわゆるミレニアム世代と呼ばれる層だ。ソーシャル・メディアを自在に使いこなし、コミュニケーションの輪を広げている。そのような志向が同サービスにはまるのだ。
そのような、共用部の充実やターゲット層への人気により家賃を高くすることに成功している。月額の賃料を近隣相場の1.2~1.3倍で設定しても2カ月で満室になる事例も出ている。
「他の住人との交流が付加価値として認知されているんです」(山﨑社長)
共用部にビリヤードルームのある建物も
客付け、運営まで
同社のサービスは、物件のリノベーションの企画から、入居者の集客、開設後の運営までワンストップで行われる。
リノベーションの企画は、開設するエリアで個別のテーマを設定している。例えば、兵庫県神戸市の物件には音楽スタジオがあったり、神奈川県川崎市の物件にはヨガスタジオがあったりする。しかし、これは、ターゲットを絞っているわけではなく、基本的に万人受けする内容を選んでいる。
また、専有部は1K~1LDKの中間程度のサイズで、各部屋にはトイレ、バス、ミニキッチンを用意。自室で生活を完結させることもでき、ラウンジで他の入居者と交流を図ることもできるようになっている。
また、施工後に問題となる集客も自社で行っている。専用のウェブサイト「SOCIAL APARTMENT」を用意し、各物件の共用部を中心に豊富な画像でエンドユーザーにPRする。客付けまで行うことで、オーナーの満足度を高めている。
直近5年で取り扱いが増加
同社が手掛けてきた35棟のうち、2012年以降の4年間で28棟にも上る。年間7棟ペースで拡大してきた。物件全体の6割を旧社宅が占めている。
社宅が多い理由について、山﨑社長は、次のように話す。
「定期賃借契約が終了して撤退した企業の旧社宅などを貸主のオーナーが困り、問い合わせてくるケースが多いです。築20年程度のRC構造で建物寿命はまだまだあるため、取り壊さずに活用する方法を探している方が、紹介で当社に訪れますね」
同社は今後、このような定期賃借契約の終わった企業の旧社宅がマーケットに多く出回ると考えており、リノベーションによるコンバージョンビジネスを強化していく。

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