約1年前にすべてのアスベスト(石綿)の事前調査が義務化された。さらに今年4月、結果の報告義務化も始まった。外装業界から「義務化は厳しい」「情報が追いつていない」といった声が出始めている。注目されているのが、スレート屋根材への対応策。屋根を塗装する際にどう対応すべきか。【リポート/編集部 高田遥介】
《目次》
- 1)外壁塗装業界への影響は
- 2)いまさら聞けない、報告義務手順を解説
- 3)塗装事業者、現場の声は?!
- ①リフォーム事業者は「負担増は間違いない」と不安
- ②匿名で出た、リフォーム事業者の「本音」
- 4)屋根業界への影響
- ①屋根葺き替え、張り替え業界は、「驚きなし」
- ②メーカー担当者「問い合わせ4、5倍に」
高圧洗浄、事前調査必須
「うちは関係ない」は危険
「塗装業界は関係ないと思いこみ、屋根の塗り替え時は調査、結果報告しなくていいと勝手に解釈しています。でもそれは間違いです」。こう話すのは、約170社の塗装事業者が加盟する木造住宅塗装リフォーム協会(東京都墨田区)の古畑秀幸代表理事だ。
木造住宅塗装リフォーム協会
古畑秀幸代表理事
今回の法改正では、請負代金100万円以上の改修工事や80平米以上の解体工事が事前調査報告義務化の対象となる。塗装リフォームは主に、上塗り塗装と塗り替え塗装に分かれる。多いのは上塗り塗装で、この場合は環境省も「事前調査は不要」と語っている。ただし、「自治体によっては上乗せ条例で事前調査を求められる地域もあるので、確認してほしい」と話している。
しかし塗り替えリフォームであれば、条件を満たす工事は多いと予想され、「知らない、やっていない、ではすまない」と古畑代表理事は語る。
古畑代表理事によれば、戸建ての場合、新築から15〜20年で初の塗装となる。またアパートは、10〜15年で初回塗装となることが多い。
「そのうち半分くらいは、アスベスト含有の着色スレートが使用されているイメージです。特に関東以西、アパートの方が多い。国が指摘する2006年9月までの新築物件の屋根には、アスベスト含有のスレート材が使用されていますので、初回塗装の際に遭遇する可能性は高いです」
スレート屋根材は、非飛散性アスベスト含有建材(レベル3建材)であることが多い。耐久性の高さが評価され、ケイミュー(大阪府大阪市)では1960年代から2000年代までアスベスト入りのスレート屋根材を製造。住宅屋根に使用してきた。
屋根リフォームの際の調査は、ますます重要性を増す
東京のあるリフォーム会社の社長は、「アスベスト入りとそうでないスレート屋根材を比較すると、台風への耐久性や塗料の吸い込みにくさではアスベスト入りの方が優秀です」と語る。
しかし、2006年以降は使用が禁止され、今回の法改正で事前調査の報告義務化の対象に。塗装業者は屋根の塗り替えリフォームをすることも多く、塗装業界にとって避けては通れない問題だ。
屋根工事をする際には、元請け業者が発注者から設計図書などをもらい、どの箇所をどれだけ改修するのかを確認する。2006年9月1日以降の建設であれば、「アスベストなし」と判断できるが、そうでない場合は、詳細な調査を行う。
まず目視で確認。屋根材のロット番号等を見て、メーカーへの問い合わせや国交省と経産省の共同データベース「石綿(アスベスト)含有建材データベース」を活用し、アスベスト含有建材かを確定させる。
それでもわからない場合は、専門の調査会社に分析調査を依頼。任意の3カ所のサンプルを用意し、調査を行う。費用は5万〜8万円代が多く、結果の判明まではおおよそ1、2週間はかかる。
結果が判明すれば、その情報を工事着手前に自治体へ報告。また、国(厚労省・環境省)のサイト「石綿事前調査結果報告システム」にも報告する。現場には、事前調査結果の記録を見やすい場所に提示し、そのデータは3年間保管。これで完了となる。
なお、石綿含有建材と判明した場合は、除去工事を行う。レベル1、2建材であれば、工事14日前までに、労働基準監督署に計画届を提出する必要がある。
3分の2は屋根も塗る
協会内では、法律改正前から会員企業向けにセミナーを行っている。「外壁塗装工事のうち3分の2が、屋根も一緒に塗る」からだ。昨年末には、東京都環境局の担当者を招いてセミナーを実施。質疑応答も行い、理解を促した。
質疑応答の際には、どのような場合に事前調査が必要か質問が相次いだ。原則、建材を加工するような場合は調査が必須。
例えば、化粧スレート屋根と窯業サイディングの塗り替え時の高圧洗浄はどうか。この際、表面の塗膜を削る作業がある。
「もし削るなら、アスベスト有無を事前調査で調べないといけません。その後、アスベストの含有が判明すれば、高圧洗浄の廃水は受水槽で回収し、凝集沈殿する。アスベスト含有汚泥としての処理が求められます」(古畑代表理事)
さらに、屋根のカバー工法、劣化窯業サイディングの取り換えや取り外し、穴あけ、コア抜き、カットなどの加工が1カ所でも発生すれば、事前調査は必要だ。
「加えて、電動工具を使用する場合は隔離養生が必要になります。屋根外壁のカバー工法は、必ず下地の取り付けでインパクトドライバーを使用しますから、隔離養生が必須。基本的に、要件内の外装工事は全て調査しないといけないのです」(古畑代表理事)
消費者の方が敏感 最悪裁判も
すでに一般消費者の方が法律やアスベストに対して敏感になっており、施主から指摘されて責任問題に発展する可能性もあるという。
今年に入りこんな報告が。加盟店の事業者が塗装リフォームをした際、A3の看板を設置していなかったところ、近隣住民が市役所に連絡し担当者がすぐに確認に訪れた。
「解体工事や改修工事の際、アスベスト調査結果に関するA3サイズの看板(42cm×29.7cm以上)を現場の見やすい場所に設置する義務があります。協会内では、昨年から全現場に掲示するよう指示している。看板を出すことで、法令遵守しているリフォーム会社だと伝えましょう、と。しかしこれを行っていない事業者が多く、大問題です。責任者問題のみならず、違法行為を繰り返せば裁判沙汰に、最悪の場合建築業の許認可が5年下りない可能性もあります」(古畑代表理事)
2年前から法改正の動きはあったが、塗装業界では「屋根の葺き替えだけの話」と自己解釈している業者、業界団体が多かったと、古畑代表理事は指摘する。「そもそも法改正すら知らない業者もいます。経産省登録の16団体でアスベストに関する情報交換をしていますが、尻に火が付いたのは去年秋。それも調査書の作成、資格取得の話が出たレベルです」
塗装業界は今後、アスベストの事前調査報告義務、解体工事の際の飛散防止策を徹底しないといけない、と古畑代表理事は警告する。「スレート材に限らず、調査しないことは法律違反、という認識を強く持ってほしい」(古畑代表理事)
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