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期待耐用年数ープレマテックスが語る、光沢保持率80%ラインが生む誤解

期待耐用年数ープレマテックスが語る、光沢保持率80%ラインが生む誤解

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一般的な促進耐候性試験の一例

塗料の期待耐用年数

前回(10月27日号)では塗料の期待耐用年数の社会的役割と重要性についてお伝えしました。今回は、その期待耐用年数の根拠として欠かせない要素の1つ「促進耐候性試験」に焦点を当てます。塗装施工店向け情報サイト「プレマナビ」を運営するプレマテックス(東京都江東区)製品事業部の鈴木淳が、グラフの見方や期待耐用年数にまつわる誤解の正体と背景、そして本質を捉えた評価のあり方について解説します。

光沢保持率80%
ラインの誤解

多くの試験では、光沢保持率の低下(=塗膜の劣化)を示す目安として「80%」を1つの基準にしています。

では、塗装後に光沢が80%まで落ちた時点で、もう塗り替えが必要になるのでしょうか。実際には、その段階ではまだ色あせやチョーキングもほとんど見られず、消費者が再塗装を検討するような劣化進度とは大きく隔たりがあります。

ところが、図①のようなグラフと「80%ライン」の表記から、「光沢が80%を下回った時間=その塗料の期待耐用年数」と誤解してしまう一部の施工店や販売スタッフが少なくありません。

そして、そういった一部の誤解を論理的に解消することができず、期待耐用年数という言葉の扱いに慎重になったり、あえて曖昧にしてしまったりするメーカーがいるのも事実です。では、そもそもなぜ「光沢保持率80%」が基準となったのでしょうか。

光沢80%は「劣化の始まり」に過ぎない

光沢保持率80%とは?

もともとこの80%基準は、戸建住宅用の塗料で生まれた基準ではありません。ゼネコン主導の公共工事や大型建築で使われる「建築用仕上塗材」(JIS A 6909)の耐候形区分(1〜3種)に記載されているものです。

ここでの「80%」は、耐候形区分を合理的に等級化するための目安であり、「80%を切ったら保護機能が失われる」という意味ではありません。しかし、こうした区分が、住宅塗装において「耐候性を示すモノサシ」として捉えられてきた背景があります。

光沢80%は「劣化の始まり」
に過ぎない

弊社では光沢保持率80%未満〜60%以上を、目視で分かる変化を示し始めた段階と捉えています。つまり、その入口となる80%は、まだ「劣化の始まり」と言えます(図②)。

試験結果として判断材料にできるギリギリのラインであり、実際のチョーキングや退色など、再塗装を検討するような劣化状態とはまだ距離があります。さらに言えば、この段階で塗り替えを行うこと自体にリスクもあります。

無機塗料やフッ素含有量の多い高耐候塗料などでは、劣化が進んでいない状態では新しい塗料が密着しづらく、かえって剥離などの不具合の原因となることがあります。このような場合は、事前の下地処理や適切な下塗り材の選定など、特別な施工配慮が不可欠となります。つまり、光沢80%の段階は「塗り替え時期」どころか、慎重な施工判断が求められる「施工リスクのある時期」でもあるのです。

促進耐候性試験による劣化進行の分類

なぜこの指標が
今も使われるのか

この指標が今も使われる理由の1つは、前述の通り、JIS A 6909の耐候形区分の考え方が住宅用塗料においても使われてきたこと。そして、それが転じて塗料の耐候性を示す目安として捉えられてきたためでもあります。

消費者に対して「この塗料は何年もちます」と伝える際、JIS基準の80%という明確な「目安」か「基準」を根拠に示せば、説得力がある。そこにおおよその年数換算を当てはめれば、分かりやすい。その「説得力のある分かりやすさ」が、今日までこの指標が用いられてきた理由です。

さらに、塗料の耐候性試験には多様な試験機が用いられているにもかかわらず、建築仕上塗材のJIS A 6909に記載された「キセノンランプ試験」が、「建築塗料全般に共通する国家規格」であるかのような誤った情報をメーカー自らが発信してしまうケースも見受けられます。

そしてそのキセノンランプ試験のグラフにある80%の線引きが、現場の誤解をさらに複雑化させていることは否めません。

本質をとらえた
耐候性評価

弊社では促進耐候性試験における光沢保持率の変化をもとに、塗膜劣化の進行状況を上記の4段階に分類しています(図③)。

そして期待耐用年数の設定にあたっては、地域や立地条件などの環境差を十分に考慮しながらも、より実際の使用環境に近い年数を捉えるために、劣化初期から劣化進行期へ移行し始める時期を目安にしています。

試験機器の特性や傾向を踏まえ、安全性と確実性の両面から慎重に算出することで、さまざまな環境下でも高い信頼性を確保できるよう配慮した年数評価を行っているのです。実際の現場においては、期待耐用年数が経過しても直ちに塗り替えが必要な段階とは限らないため、色あせやチョーキングといった実際の外観変化を、塗り替え時期の目安としてご案内しています。

業界全体での共通認識が
信頼を築く

これらの誤解の裏には、建築用仕上塗材の耐候形区分が、指標のなかった住宅用塗料における期待耐用年数の目安に流用されてきた背景がありました。

そしてメーカー側も、塗料の信頼性を示す拠りどころとして促進耐候性試験とJISの耐候形区分を利用する一方で、期待耐用年数との相関性については明確な説明を避けてきたことも一因と考えます。だからこそ今、試験結果が示す意味と正しい理解を、業界全体で正しく共有することが求められています。

それは製・販・装のすべてに共通する責任であり、ひいては塗装業界全体の信頼と発展を支える土台となるのです。

製品事業部 鈴木淳氏製品事業部
鈴木淳氏

会社概要
会社名 :プレマテックス
本社所在地 :東京都江東区
設立年 :2000年3月
事業内容 :建築塗料の開発・製造・販売、技術管理サービス、各種建築資材販売、住宅塗装工事の仲介事業および施工管理事業

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