塗装現場の今 ~下請け職人の現実~
塗装業界の下請け職人が過酷な仕事環境にさらされている。戸建て一棟あたりの請け額が材料込みで30万円は当たり前、ひどい場合は15万なんてケースもある。そうした中、赤字を出さないために手抜き工事をせざるを得ない状況に追い込まれている。塗装業界で働く2名の職人と、塗装会社社長、さらに塗料販売会社社長の4名に集まってもらい、塗装の現場の実情を聞いた。
30万もらえればいい方
―――最近はかなり、請負金額が安いと聞きますが。
塗装職人Aさん(以下A) 特にハウスメーカーの下ですと、うちらに仕事が来るまで5社ほど中間業社が入りますので、戸建て1棟あたり外壁、屋根の塗り替えで30万円もらえるといいほうです。あるハウスメーカーの下なんか15万ですよ。足場代は別ですが、材料込みの価格です。
―――そんなに安いのですか、材料代はどのくらいなんですか。
A 10万円ぐらい、あと養生代が1、2万とガソリン代がかかります。
―――そうすると、30万円の場合は利益で18、19万円。15万円だと3万円ぐらいしか出ないですよね。それで1棟の塗装となると、結構な期間拘束されると思いますが。
塗装会社社長Cさん(以下C) 本来であると、1棟あたり20~25人工必要ですが、この金額だとかけられません。通常は1人工1万5000円ぐらいですから。私も昔は下請けをしていましたが、30万円から40万円でも請けられない状況でした。それよりも下がっています。
塗装職人Bさん(以下B) 今30、40万円もらえるならば、ガッツキますよ。ハウスメーカーは基本2名現場に入らないとだめなのですが、15人工でも赤字、7、8人工で終わらせないとだめですね。
―――それでは、規定の工事ができないですよね。
A 3回塗らなければいけないところを2回にするとかします。余った塗料はどこかに捨てないといけないですが。
―――それでばれないのですか。
B ばれませんね。引き渡しの時、施主がOK出しますから。
―――そんな状況では破たんしてしまいますよね。金額交渉はできないのですか。
A 基本仕事はハウスメーカーの下の塗料メーカーから入るのですが、交渉したら仕事がもらえないですよ。
C それでどうしようもなくて、手を抜くんです。塗料にさび止めを入れないとか、ファンデーション代わりのフィーラーを入れないこともあるそうです。鉄部はさび止めを入れないとすぐサビがでますよ。
B たぶんハウスメーカーさんは、一流なので施主に工程ごとの他のお客さんの写真だとかを全部見せて提案するわけです。するとそれを行う中間業者の経費が、塗装代金にプラスされます。ただ、5社も間に入っていますから、必要ないコストもあるでしょうね。
A 僕たちもちゃんと仕事はしたいんです。でも先日なんかは、上塗りでフッ素塗料の現場があったのですが、行ったら1缶しか入れてもらえていませんでした。それだと60平米ほどしか塗れませんが、それでなんとかしろと。そこで、規定量以上の希釈をして塗りましたが、希釈しすぎると機能が低下するじゃないですか。それでもやらなくてはいけなかった。
―――でもチェックは入らないのですか。
塗料販売会社社長Dさん(以下D) 最近塗料メーカーもチェックが厳しくなってきていますが、もし、塗り直しとなっても職人は逃げちゃいますよ。金額がもらえませんから。
ローラーも洗って使い回し
―――道具だってそれなりの費用がかかりますよね。
C ローラーだって使い捨てですから結構かかりますよ。俺が聞いた話だと軒裏のローラーは1年使い回すようですね。
―――カピカピになりませんか。
C 材料につけておくんです。
D つけておくと空気に触れませんからね。固まらないんです。
A 水性の材料なんかローラーを洗って使っています。
―――そうなると15万円の現場だとより手を抜かないといけませんよね。
B 下塗りはしましたが、ピン(1回)塗りです。それでも通常18時までのところ、19時、20時と遅くまでやっていましたから。
―――ちなみに金額は始まる前に伝えられるのですか。
B 工事が終わってからですね。
―――えっ、費用が決まらないまま動き出すのですか。
A そうですね。ただ、ハウスメーカーごとに大体金額が決まってますので、それを勘ぐって赤字ができないように1回、2回塗りと決めないといけない。
B ある塗料メーカーですと、金額を伝える書類もなく、口頭ですよ。一応始まる前に金額を聞きますが、まだわからないとか、書類がまだ来ないとか、そんなケースが多いです。
A たまに何を塗ればわからないときもありますよ。ただ、工程表だけ来て、いついつから、いつまでに終わらせろときて、とりあえず下塗りだけしていくのです。
―――それで、いつ指示が来るかボーっと待っているのですか。
A こっちも教えてくださいと言うんですが、長いと2日ぐらい待つこともありますよ。
―――そうなると月に入る収入も少なくなりますよね。
C だから、仕事のピークはたぶん30代なんです。体が一番動く時の収入が多くなりますよね。
A でも15万円の現場では無理して、けがが増えたそうなんです。
―――それは保証されないのですか。
A たぶん、保証されますけど、けがをすると現場立ち入り禁止です。
―――じゃあけがしても言えないのでしょうか。
A だから隠します。安全配慮義務は厳しくなっていますが、無視して無理しないといけないんです。
塗料の質が低下
―――ちなみに、塗料の質は上がっているのではないのですか。
D 下がっていると思います。
―――でも、今はシリコンかフッ素塗料を使うのが当たり前ですよね。
C メーカーにもよりますが、シリコンとかフッ素塗料がメジャーになってから、入る樹脂が少なくなってきたんです。昔はアクリルかウレタンが中心でしたよね。でも樹脂がしっかり入っているから、結構もった塗料もありました。ところが、シリコンが好まれるようになってから、安くなってきまして、もちが悪くなってきました。
―――それじゃあ意味がないじゃないですか。
C 実際、うちでシリコンを塗った現場が6年ほどで、チョーキングしています。
―――じゃあどうすれば業界が変わりますかね。
B 請負金額でしょうね。それが上がれば手を抜きませんから。
A 1棟40万円は欲しいですね。最低20人工はかかりますので。
D ある塗装職人は、下請けで仕事したあと塗膜がはがれて、手抜きだからやり直せとなったらしいのですね。でも俺はちゃんとやったと、材料が悪いと言い争いになりまして。その職人は、壁の半分を自分がいつも使っている塗料、半分を上から指定された材料で塗ったのです。それでガムテープを両方に張ってはがしたら、指定された材料だけはがれまして。その人はもうその会社の仕事はしないとなったそうです。業界の体質を変えないといけないと感じます。
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