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性能向上リフォームが工務店を後押し大型リノベで使える補助を活用

性能向上リフォームが工務店を後押し 大型リノベで使える補助を活用

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既存建築ストックの長寿命化に向けて動きがあるが、なかなか進まない既設住宅の性能向上。「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて各企業が取り組みを進める中、地域密着型リフォーム店ではどのようにこの問題を捉えればいいのか、エー・ディー・エル一級建築士事務所の沖田光平代表に聞いた。

ストックの性能向上の必要性と問題点

国は、2050年までに、新築のみならず、ストック平均でのZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されることを目標としている。しかし、現状は、空き家を除く住宅ストック約5000万戸のうち、外皮性能にかかわる省エネ基準を満たしていない住宅ストックは約87%。省エネ性能が低い住宅ストックの性能向上は、カーボンニュートラルを達成するためには、必須の取り組みだ。

外壁・屋根(天井)・床・窓等の断熱補強や、省エネ性能の高い設備への更新等の省エネ改修等によって、住宅ストックの性能向上や有効活用を進める必要があることは明白だが、省エネ性能の確認が容易ではないことや、新築時と比べて、一般的に省エネ性能の向上の措置に必要な費用が高額になる等、特有の課題も指摘されている。

出典:国土交通省 「現況の確認により断熱仕様が特定できない場合の断熱性能の評価」出典:国土交通省 「現況の確認により断熱仕様が特定できない場合の断熱性能の評価」

省エネ性能の把握方法、評価技術の難点

当社でも、インスペクション業務を行っているが、劣化事象や不具合事象は比較的、判断しやすいが、躯体の断熱性能については、無機繊維系や発泡プラスチック系等、使用されている断熱材の種類は判断できても、熱伝導率や厚みまでは、判断が難しい。外皮性能計算で必要となる断熱材の性能根拠が判断できなければ、外皮平均熱貫流率(UA値)を導くことができないため、原則的に原設計の仕様における、正確な一次エネルギー消費量や「年間CO2排出量」を算出することはできない。

住宅ストックには、省エネ性能や耐震性能の把握方法や評価技術等において、新築と異なる、特有の課題が多く、国も改修前後の合理的・効果的な方法(技術)の開発の必要性を強く認識しているようだ。今後、増加することが見込まれる、住宅ストックにおける、省エネ・耐震性能の向上には、この「省エネ診断・耐震診断」への対応が不可欠だと考える。

性能向上リフォームのススメ

「良質な住宅ストックの形成」に向けた取り組みは、カーボンニュートラルのためだけでなく、国を挙げて取り組むべき喫緊の課題だ。解決のための方策の筆頭に「長期優良住宅の普及」があると考える。安定した構造や劣化軽減への対応、維持管理・更新に配慮されており、何より、2022年10月からは、省エネ性能が「ZEH水準」まで引き上げられた(新築版)。長期優良住宅のような、良質な新築住宅を提供することはもちろんだが、住宅ストックについても同様の取り組みが必要だ。長期優良住宅には、「新築」だけでなく、「増築・改築」の認定基準も定められており、取り組み促進のための補助事業も実施されている。

本事業は、住宅ストックにおける「性能向上リフォーム」の促進を目的として実施されている。性能向上リフォームとは、省エネ性能や耐震性能等、住宅の基本性能を高めるリフォーム工事の通称。比較的、軽微なリフォーム工事でも申請しやすい「評価準型」が人気のようだが、大規模改修(リノベーション等)の際に活用しやすい「認定長期優良住宅型」も、年々申請の総数が増えているようだ。適合・認定の要件は、基本的には新築版と同様だが、住宅ストック向けに、基準は少し低めに設定されている。また、当該基準を満たすために行う、性能向上リフォーム工事の実施等で、補助率3分の1、最大250万円の補助金(令和4年度事業)を受け取ることが可能だ。

一般社団法人住宅性能評価・表示協会 「長期優良住宅(増築・改築)の認定基準 概要 〈令和4年10月 認定基準改正版〉」一般社団法人住宅性能評価・表示協会 「長期優良住宅(増築・改築)の認定基準 概要 〈令和4年10月 認定基準改正版〉」

長期優良住宅化リフォーム推進事業の活用

本事業の要件のひとつに、インスペクション(既存住宅状況調査)の実施がある。リフォーム工事前に実施し、劣化事象や不具合事象を確認。省エネ性能や耐震性能を可能な限り把握して、現状から事業で定める基準を満たすための性能向上リフォーム等を補助対象工事として補助金を申請する。このように、他の補助事業と比べ、少し手続きの流れが異なるため、申請が難しく感じることがあるかもしれないが、何より、住宅ストックにおいても、当該基準を満たすことで、長期優良住宅の認定(増築・改築版)を取得することができる。

国土交通省 「令和5年度 長期優良住宅化リフォーム推進事業 事業概要」国土交通省 「令和5年度 長期優良住宅化リフォーム推進事業 事業概要」

高性能住宅にリフォームし生活を豊かに

性能向上リフォーム(リノベーション)の主役は、間違いなく工務店だ。地域に根付き、経験と高い技術を備えて、住宅を見守る地域密着店が、リフォーム工事に躯体の断熱補強や設備の高効率化に関わる工事を加えて、提案していただきたい。気候変動問題を解決するには、一人ひとりの行動変容が求められる。長期的に住まうことができる高性能な住宅に性能向上し、少しの省エネルギーを心掛けた生活を送ることで、我々の暮らしはより豊かなものになり、ひいては、カーボンニュートラルにつながる取り組みになると信じている。

エー・ディー・エル一級建築士事務所 沖田光平 代表エー・ディー・エル一級建築士事務所
沖田光平 代表

本補助事業の申請に係るアドバイスや、長期優良住宅(増築・改築版)の適合申請の設計サポートを実施。省エネ性能を満たすための外皮性能計算や一次エネルギー消費量計算、耐震性能を満たすための許容応力度計算等が必要な場合の設計サポートも行っている。

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