住宅ストック市場の新シナリオ13
keyword 08◆ 履歴管理
既存住宅流通を円滑に進めるために、「住宅履歴情報」は欠かせない。過去にどのようなリフォームが施されてきたのか、といった情報が分かりやすく保管されていれば、買い主の不安も軽減される。リフォーム事業者にはどのような管理が可能か。カナエル(神奈川県横浜市)の取り組みを紹介する。
3人チームの診断から
「これがお客さんの家の歴史を一冊にまとめた『ハウジングヒストリーファイル』です」。こう話すのはカナエルの統括マネージャー、宮入晶浩氏。同社はガス事業を母体にしながら、リフォーム事業も展開。年間300件ほどの工事を手掛けている。同社が2年前に始め、昨年グッドデザイン賞を受賞したのが、この「ハウジングヒストリーファイル」だ。
このファイルの中にはリフォームした施主の家の診断時の劣化状況と過去の改修履歴、さらにはこれから起こるであろうリフォーム修繕計画表までが取り揃えられている。「現在、過去、未来がこの一冊で分かるようになっています」(宮入氏)
ファイルを作る第一歩は有資格者による住宅診断。同社では原則全てのリフォーム希望者に対して、まず建物全体のインスペクションを実施する。具体的には同社の建築士や既存住宅現況検査技術者ら3人がチームとなり、丸一日かけて診断をする。
「依頼されたリフォームの箇所以外も調べることが大事で、今、家のどこが悪いのか『健康状態』を明らかにします。お客さんからは『見えないところの状態が分かる』とすごく好評です」
「ハウジングヒストリーファイル」には、住宅の健康状態を示す診断結果の報告書や、リフォーム工事中の画像、さらにはメンテナンス方法と今後のスケジュールなど、住まいの「履歴情報」がびっしりと収められている
受注単価が上昇
診断した結果は画像とテキストで「報告書」にまとめ、ハウジングヒストリーファイルの中に収録される。深刻な状態の箇所から優先順位をつけて、リフォームの提案を行うため、当初希望していたリフォーム部位以外の注文が追加されることも多い。「キッチンのリニューアルを希望されていた方は床下が腐っていることに気づかれて防蟻工事もされる、というケースがあるんです」
この取り組みをする以前はキッチンやコンロなどの設備の取り換えが中心で、単価が50万~100万円がボリュームゾーンだった。しかし導入以後は単価が上昇。中には2000万円といった高額な依頼も出てきた。
ファイルには家の現状だけでなく、過去の情報もある。同社では、自社で手掛けた改修はもちろんのこと、他の会社でどのようなリフォームを行ったかについてもヒアリングを行っている。これらの情報は改修した時期だけでなく、施工前、施工中、施工後の画像をまとめてファイルに保存する。もちろん、工事請負契約書や、仕様書、見積書、図面などの必要な書類も保存する。
「お客様の家がどのように変わってきたのかという『歴史年表』の形にすることで、思い出のアルバムだと感じてもらえる方もいらっしゃいます」(宮入氏)

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