住宅の省エネ化というと、すぐ思い浮かぶのがドイツや北欧などの欧州諸国だが、米国でもその取り組みはかなり進んでいる。各州政府は本腰を入れて補助金制度などを導入しており、専門資格制度も整備されている。また、一方では簡易な工事として断熱効果が高い窓リフォームなども、多くのリモデラーの収益源になっている。マーケットの最新事情を現地からリポートする。
―――取材・文 本紙社長:加覧光次郎

ユーザーが簡単に着脱できる「内窓」 INDOW WINDOWS
交換型の専業工事業者、上位7割超「窓」「ドア」
米国では交換型の専業工事を主体に事業を行っているリフォーム会社のことを「リプレースメント・コントラクター」と呼んでいる。これらの業者は工事単価も安く、平均6000ドル(約72万円)と大体フルサービス型業者の4分の1ぐらいだが、それらの業者の多くは、窓やドアなどの開口部工事で稼いでいる。
REMODELING誌が発表している全米のリプレースメント部門業者、上位170社中、実に4分の3が窓とドアの工事業者だ。新築時に取り付けられていた安価な木製窓を樹脂製二重ガラスの高性能なタイプに交換するのだが、中には年間1万件以上の工事を行っている業者もいる。また、壁面などの断熱工事を手掛けている業者も全体の4分の1を占める。
網戸のように着脱でき「冬だけ」付ける「内窓」
今回訪問したオレゴン州ポートランドのニール・ケリーカンパニーはフルサービス型業者で、平均単価800万円のデザインリフォームに強みを持つが、窓リフォームにも積極的だ。同社が扱うINDOW WINDOWSという商品は、日本の内窓に似ているがPVC樹脂とアクリル板でできており、内枠には弾力性のある樹脂が付けられているため、まるで網戸のようにユーザー自身が取り付けたり、外したりできる。夏場は外してしまっておき、寒い冬だけ付けるのだという。簡易でかつ効果的な断熱改修で、工事費用も安くて済む。
同社ではまた、診断機器を活用した住宅の壁内断熱状況の検査・診断も行っている。ユーザーの中には「本格的な工事はともかく、とりあえず一度診断だけでもしてもらいたい」というニーズが少なくないという。そうした声に応えるのがこのサービスだ。日本では断熱リフォームというと何か大掛かりな感じがするが、このように簡易なメニューから用意されているのが特徴だ。
「断熱改修」で大きく急成長「効果を発揮する」から注力
もちろん、同社は本格的な断熱改修も行っている。「ホームパフォーマンス部門の工事は、それこそ簡単な窓交換で小さいものだと数万円からあり、開口部のシーリング、壁床天井の断熱工事などで平均200万円。しかし、大型工事は4000万~6000万円にもなります」(トム・ケリー社長)。

ホームパフォーマンス部門の紹介

天井裏断熱工事の施工例
同社のあるオレゴン州は、CEWOと呼ぶ省エネ改修プロジェクト(CLEAN ENERGY WORKS OREGON)を推進しており、現在、およそ20社の業者がこの事業を手掛けている。業者はCEWOを通じて施主とコンタクトを取り、BPIと呼ばれる専門資格者がまずその住宅の検査を実施する。ニール・ケリーカンパニーでは資格者が12人おり、地域No.1の実績を上げている。また、環境と資源に配慮した建築物を認証するLEEDで、同社は西海岸初の戸建て住宅を建てている。同社は太陽光発電事業もソーラー会社を買収して行っているが、ソーラーはこのホームパフォーマンス部門では主力ではないそうだ。

西海岸初のLEED認証となった戸建て住宅
「ソーラー事業の売り上げは2億5000万円にしかすぎません。残りは断熱改修で7億5000万円になります。断熱改修を進めるのはその方が効果を発揮しやすいからです」(同社長)
現在、同社のバイスプレジデント(副社長)で同部門の責任者を務めるチャド・ルホッフ氏が入社したのは2008年。以来、トム社長と同氏は二人三脚でこの新事業を飛躍的に成長させてきた。チャド氏入社の翌年、年間5000万円の売り上げでしかなかった同部門は、翌2010年には3倍の1億5000万円、そして5年経った昨年には10億円と20倍に、会社全体のほぼ3割の売り上げを稼ぐまでになった。トム社長は「ホームパフォーマンスの成長は当社を大きく変化させた」と話す。
日本のリフォーム市場では、断熱改修に取り組んでいる会社はまだまれだ。しかし今後、住宅の断熱改修が、そこに暮らす人々の住み心地や健康、そして省エネにも大いに役立つことが認知されれば、きっと一気に広がるだろう。その意味でも米国のリフォーム市場に学ぶ点は多いはずだ。
―――続く。
≪連載1回≫ 市場規模40兆円の巨大産業最新事情 ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(1)~
≪連載2回≫ 同業社をM&A米国でも稀な手法で成長 ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(2)~
≪連載4回≫ 巨大市場を支える全米1万超の流通業者者 ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(4)~
≪連載最終回≫ 消費者ニーズに対応、「卸売」と「小売」の垣根なし ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(最終回)~

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