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消費者ニーズに対応、「卸売」と「小売」の垣根なし~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(最終回)~

消費者ニーズに対応、「卸売」と「小売」の垣根なし ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(最終回)~

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 昨年末から開始した本リポートだが、最終回の今回は、大きな変化を遂げつつある米国の流通業者の中でも、よりドラスチックな変貌を遂げている企業を紹介する。自らを「ホールテーラー」と呼んでいるこの会社の場合、まさにその名のとおり、卸売業者(ホールセラー)と小売業者(リテーラー)の垣根が完全になくなっている。

―――取材・文 本紙社長:加覧光次郎

流通業者がマスコットCM消費者向けショップを展開

 大型給湯器を擬人化したマスコットが元気のいい音楽に乗って画面に登場する―水まわり商品の流通業者ジョージ・モーレン・プラミング・サプライのCM映像だ。

 日本では流通業者のCMなど想像もつかないが、この会社では消費者向けショップを展開しており、宣伝は欠かせない。

水回り商品の流通業者ジョージ・モーレン・プラミング・サプライ。マスコットの「ザ・ウォーター・ヒーター・キング」
水回り商品の流通業者ジョージ・モーレン・プラミング・サプライ。マスコットの「ザ・ウォーター・ヒーター・キング」

 1927年の設立以来88年と米国で歴史の長い管材設備流通業者である同社は、現在、ポートランドを中心に8店舗を構えるが、12年前から店舗を一斉リニューアル。今ではそのほぼ全てがエンドユーザーにも対応する小売ショップになっている。

 「私たちは1週間7日、つまり毎日オープンしており、湯沸かし器は24時間取り付けます。電話をいただいてから5時間以内を保証しているのです。だから、もしあなたが深夜の2時に電話をしたら、朝7時には専門職人が家のドアステップの前に立っているでしょう」。胸を張ってそう語るのは同社のコーポレートセールスマネジャー、アンディ・ヒルガー氏だ。

他店と違う「展示品に値札」7割に上る「小売主体」

 水栓、シャワー、バスタブ、キッチンシンクなどが、インテリアや照明の演出によって飾られながら展示してあるオシャレな店内を回ってすぐ気がつくのは、全ての展示商品に値札が付いていることだ。

明るくオシャレな店内。日本のTOTOもバス、トイレなどを展示していた
明るくオシャレな店内。日本のTOTOもバス、トイレなどを展示していた
様々なメーカーの水栓、シャワー、バスタブなどが展示されている
様々なメーカーの水栓、シャワー、バスタブなどが展示されている

 これは今回の取材で訪問した他のショールームでは見られなかった特徴だ。このショップでは顧客の7割が一般の消費者。プロは3割にすぎない。つまり消費者向け販売が主体の店なので、プライスが明示されているのはむしろ当たり前なのだ。

他の流通業者では見られない、同社店舗の「展示商品」の値札。顧客の7割が一般消費者だからこそだ
他の流通業者では見られない、同社店舗の「展示商品」の値札。顧客の7割が一般消費者だからこそだ

 「1日の来客は大体50人。8店舗で合計して1日に600件の取引がありますね。それこそ一個17セント(20円)のワッシャーから、2万5000ドル(300万円)のパッケージ商品まで、金額は様々ですが、もっとも多い価格帯としては100~130ドル(約1万2000~1万5000円)くらいでしょうか」(ヒルガー氏)

狙いは「付加価値顧客」品揃えと商品知識で圧倒

 米国ではホームデポやロウズなどのホームセンターでもこうした水まわり商品は販売されており、消費者、プロを問わず誰でも買える。しかし、そこでの扱い商品は普及品が主体で、しかも専門的な説明ができる接客員は不在だ。

 同社はそうした品揃えや専門性に欠ける対応には満足できない、いわば「付加価値顧客」を捉えている。

 「当社ならカウンターにネジひとつ持って来てくれたら、商品知識を持つスタッフが即座に、それはどの製品に付けられたもので価格はいくらかまでお答えできるでしょう。もちろんそこまで教育するには最低3年かかりますが、それがウチの強みなんです」(同氏)

業種の垣根を越えて主戦場はニーズ掘り起こし

 同社では単品売りだけでなく「the wall to the wall」で、家中の水まわり製品から建具までを揃えて供給している。専門スタッフが顧客のライフスタイルなどをヒアリングした上で、家の中をくまなく見て回り、最適な提案をするのだという。

 「ある大手給湯器のメーカー担当者が『なぜお宅ではこんなに売れるんだ』とビックリして勉強に来ましたが、今の話をお聞きになれば納得していただけますよね」(同氏)

 もはやここまで来ると流通業の範疇を超えてリフォーム会社としても高い提案能力を持つ業者と言えるだろう。

 いかにして消費者のニーズを掘り起こすことができるか――米国のリフォームマーケットの主戦場は、問屋だ、小売だ、といった業種の垣根を越えて、まさにこの境地に突入している。(完)

 ≪連載1回≫ 市場規模40兆円の巨大産業最新事情 ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(1)~
≪連載2回≫ 同業社をM&A米国でも稀な手法で成長 ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(2)~
 ≪連載3回≫ 断熱改修5年で20倍。会社の3割を稼ぐ ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(3)~
 ≪連載4回≫ 巨大市場を支える全米1万超の流通業者者 ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(4)~
≪連載5回≫ 強まる流れ、流通業者が消費者に直販 ~リフォーム先進国アメリカを訪ねる(5)~
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