リフォーム業界基本の「キ」「クレーム」編
リフォーム会社に寄せられるクレームは、どのようなものが特に多いのか。クレームの発生を予防するために、必要な対策とは。新築やリフォームの相談窓口「住まいるダイヤル」を運営する、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター(東京都千代田区)の担当者にインタビューを実施。その実態をリフォーム業界唯一の専門誌「リフォーム産業新聞」が解説する。
目次
【1】リフォーム業界のクレームの種類
【2】クレームを防ぐ、3つの予防策
【3】リフォーム会社が採用している、クレーム対策事例
- 3-1:事例(1) クレーム公開・アンケート回収(石山工務店)
- 3-2:事例(2) クレーム対応研修強化(くつろぎホーム)
- 3-3:事例(3) 安全運転講習を開催(PLUS ONE)
- 3-4:事例(4) 「詳細すぎる見積もり」公開(オガワ)
「住まいるダイヤル」とは
リフォーム産業新聞とは?
リフォーム産業新聞は住宅リフォーム市場向けの経営専門紙です。
1987年の創刊以来、マーケットトレンドや行政、企業の動向、経営戦略・ノウハウ、商品などの経営に役立つ情報を発信しています。大手住宅会社や有力リフォーム、工務店、専門工事店、住宅設備・建材メーカー、流通など業界内の幅広い層にご購読頂いています。
「住まいるダイヤル」とは
新築といった住宅の取得やリフォームの電話相談窓口。トラブルの相談だけではなく、「制度の詳細を知りたい」など問い合わせもできる。
相談員は一級建築士の資格所持者で、助言や専門知識のレクチャーを行う。電話相談のみの解決が難しい場合、弁護士会など他の機関等に案内するケースも。消費者だけではなく、消費生活センター・地方公共団体・事業者も利用可能だ。
1.リフォーム業界のクレームの種類
1-1:仕上がりトラブル、戸建てはトップ5が外装
「住まいるダイヤル」には、住宅リフォームのトラブルを相談する電話が年間7249件あった(2021年度実績)。その多くが、リフォーム会社にクレームを入れたが解決せず、専門家に相談したいと電話したケースだ。そのうちリフォーム後の仕上がりに関するクレーム「不具合事象」が4701件と64.9%を占めている。
不具合が生じている箇所は、戸建てと共同住宅で異なる。戸建ては、トップ5全てが外装工事という結果になった。最も多いのは、屋根や外壁の「雨漏り」だ。年間579件にも及ぶ。その次が屋根や外壁の「はがれ」、3位が屋根や外壁の「ひび割れ」になる。一方、共同住宅は、内装がメインだ。1位は、年間164件の床・内装の「変形」。2位が内装や床の「はがれ」。3位が設備機器の「性能不足」だった。
岡田愛美リフォーム情報部次長はこう解説する。「要因として、工事が雑で手を抜いている、また技術力不足が挙げられます。施工を担うのは職人の方ですが、リフォーム会社は『管理能力』を高めればクレームを未然に防げます」
1-2:契約トラブルの3パターンとは
「不具合ではない」トラブルの相談電話は、2021年度に2548件あった。岡田次長は「ほとんどが契約に関するトラブルから発生したクレームです」と話す。
契約に関するクレームトラブルは、主に3パターンが挙げられる。1点目は施主の合意なしで発生したリフォームだ。過去には「正式な契約を結んでいなく、見積もりのみで工事が始まった」というトラブルも。
2点目は契約内容と消費者の認識が異なる事例だ。「外壁塗装を一部分だけ頼んだが、勝手に全部塗られた」など費用や工事内容、工程に関する合意が違い、トラブルにつながった。
3点目は、工事後の対応について。「追加費用が請求された」や「リフォーム後の保証がなかった」など契約時に説明がないために起きてしまう。
2.クレームを防ぐ、3つの予防策
クレームを事前に防ぐには、3つの対策が必要だ。仕上がりと契約トラブルどちらも「施主とコミュニケーションをどうとるか」が重要になる。
2-1 契約書・保証書・図面を残す
岡田次長は「クレームになった背景には、書類が残っていないケースが多い」と語る。金額や工事内容を記載した契約書だけではなく、アフターメンテナンスの対象や費用、期限も明記した「保証書」もあるとわかりやすい。また工事の詳細を知ってもらうためには「図面」も不可欠だ。
2-2 契約前に「リスクも」説明する
契約内容を説明する際は、契約後に起こりうるリスクにも触れればクレーム回避につながる。具体的には「納品遅延が起きた場合の工事遅延」「どのような状況で追加工事が発生するか」「追加工事が発生した場合の費用」など事前に知っていれば、実際に発生しても理解を得やすい。
2-3「合意を得てから」を徹底
契約時には書類や口頭での説明をするだけではなく、施主の「合意を得てから」も徹底すべきだ。リフォーム工事は緊急性を伴うケースが多いが、その際も確認を取ろう。その旨を書類に残せば「言った・言わない」と不明瞭でクレームになる事態を防止する。
「予防をしても、クレームをゼロにするのは難しいと思います。発生したら、迅速な対応が必要です。事態の把握、原因と解決方法の説明、解決策をとるという流れです。予防と同じく『勝手な判断をせず合意をとってから』を心がけていただけたら」(岡田次長)
住宅リフォーム・紛争処理支援センター
岡田愛美
リフォーム情報部次長
【リポート/編集部 後藤梓】
3.リフォーム会社が採用しているクレーム対策事例
「リフォームはクレームありきの商売。うまく付き合っていくしかありません」。会社経営者からはそのような声が漏れ聞こえてくる。各社はどのようなクレームを受け、どう対処してきたか。2022年6月13日号で取り上げた、4社の事例を紹介する。
3-1:事例(1) クレーム公開・アンケート回収(石山工務店)
石山工務店(北海道旭川市)では、顧客から集めたクレームの声を自社のホームページに掲載している。「現場に職人さんが入らない日が続き、不安を感じた」など、実際のクレームを紹介。
「リフォームしようかなと思ったら、悪い評判がないか知りたい。飲食でも『食べログ』などの点数を見ますよね。ユーザー心理に真摯に向き合ったら、公開しようとなりました」と石山実社長は語る。
さらにクレーム情報を吸い上げることにつながるアンケート回収を徹底。1カ月以内に回答がもらえない場合は電話や訪問で100%の回答率をめざす。
社内体制に問題が判明すればすぐ改善。施工会社に問題があれば今後取引をしないほどだ。クレームを元にチェックリストを作成。ビスの間隔まで確認する厳しい基準だ。また無理な金額交渉によるクレームを避けるため、相見積もりは受けず「石山工務店でやってほしい」という顧客しか対応しない。
HPで公開しているクレーム。原因や今後の対策も記載
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3-2:事例(2) クレーム対応研修強化(くつろぎホーム)
年間2300件のリフォームを手掛けるくつろぎホーム(大阪府吹田市)はクレーム対応を徹底することで顧客満足度を高めている。
クレーム発生後に丁寧な対応を行うため、2カ月に一度外部のコンサルによる社員研修を実施している。その際、共感姿勢を示しながら状況を理解し、具体的な対策を示して謝罪をすることを学ぶ。
「まず何に怒りを感じているのか、把握しなければいけません。謝意を伝える大前提として、聞く力を磨き共感している姿勢を示せるかが重要です。そして絶対にあってはならないのは、平謝りをしてしまうこと。何に対して謝るのかや今後の対応策を、具体的な言葉で伝える必要があります」と黒木太郎社長は語る。
クレームが発生し対応した後は、会社全体でクレームに理解を深められるよう、全社員参加のミーティングで共有する。報告するだけではなく、今後同じ問題が発生しないよう社員で考え発表する場になっている。
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3-3:事例(3) 安全運転講習を開催(PLUS ONE)
PLUS ONE(奈良県奈良市)では、安全運転講習を開催している。何度も繰り返した社員には始末書を書いてもらう、それでも直らない場合はボーナス査定でマイナスにするなど罰則を強化。
安全運転に関するクレーム対策を始めた理由は「車の運転が荒い」と電話越しに非難の声が相次いだため。同社の社用車は、赤や黄に彩られたカラーリングに犬のキャラクターのイラストが描かれている。ひときわ目立ち、宣伝広告効果をもたらすが「社用車に切り替えてからクレームが増えました」と大西隆行専務は振り返る。
こうした取り組みが身を結び、現在は社用車に関するクレームは激減した。
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3-4:事例(4)「詳細すぎる見積もり」公開(オガワ)
オガワ(京都府京都市)は、ホームページ上で工事内容・費用別で詳細に施工事例を紹介し、クレームを未然に防ぐ取り組みを行う。300超の施工事例で、見積もりと金額全て公開。事例を1つ見ても、詳細ぶりは一目瞭然だ。例えば、京都市内のマンションのユニットバスリフォームを見ると、TOTOのマンションリモデルWH(100×140cm)を採用し、築年数は35年、工期は6日で費用が税込み80万2000円と、事細かに記載している。
この取り組みは、予算の不一致によるクレームを防止している。クレームにつながらない仕組み作りを先に行うのが狙いのだ。例えば、「業界最安値の25万円で施工」と告知すると、顧客はそれを本当の金額だと思いこみ、工事費用が別だと聞くと「話が違う」となりクレームになる可能性がある。
「『この価格でもご納得いただける方はご連絡ください』と暗に伝えます。価格の安さだけ求める人は来なくなり、私どもの正直さに納得した方しか来ない。クレームは起きにくくなります」(小川剣人取締役)
ホームページでの施工事例には、その他にもメーカー、商品の大きさ、工法別で調べられるタグも用意している
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