宅地建物取引業法の一部改正に伴い、今年4月1日から宅建業者に建物状況調査(インスペクション)の告知・斡旋することが義務化される。インスペクション自体は数年前から大手不動産会社など一部の民間企業でそれぞれ独自の基準に基づき実施されていたが、今回の改正により、既存建物の売買仲介に関わる宅建業者が行う必要ができてきた。
業法で定められたインスペクションのルールや調査に掛かる費用の相場、そして改正が及ぼす影響について本紙リフォーム産業新聞で掲載してきた記事を元にまとめた。
2.改正宅建業法のルール
・宅建業者の義務
・調査内容
・調査資格者と団体
3.1回あたりの相場金額は?
4.宅建法改正に伴う問題
・普及するのか?
・調査の信用性の担保
5.まとめ
インスペクションとは?
インスペクションとは、既存建物の基礎・外壁などひび割れや破損、天井の雨漏りなど、建物の劣化状況を専門家が調査すること。中古住宅の売買が盛んなアメリカやヨーロッパでは、家を購入する前にインスペクションを行うのは当たり前になっている。現地で活躍する「インスペクター」と呼ばれる専門の診断員は、不動産売買にはなくてはならない職業の1つとして認知されているほどだ。
今回の改正では、日本でも中古住宅の売買が増えていること、また消費者がその品質や状態に不安を感じていることを背景に、2016年にインスペクションの活用を盛り込んだ法改正が国会で成立。いよいよ今年4月から施行させれる流れとなっている。
改正宅建業法のルール
宅建業者の義務
業法の改正により、宅建業者は何をしなくてはいけなくなったのか。国土交通省では、以下の3点を義務付けるとしている。
・媒介契約において建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面の交付
・買主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明
・売買等の契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面の交付
(出典)
国土交通省・「宅地建物取引業法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」を閣議決定
http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000143.html
つまり、4月から宅建業者には買い主に対し、「インスペクションについて説明できること」と「インスペクション業者を斡旋できること」が求められることになる。また重要事項を説明する際の書類フォーマットは、国土交通省のウェブサイトからダウンロードすることができる。
宅地建物取引業法 法令改正・解釈について
http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000268.html
詳しくは... 「診断」が中古住宅流通を変える
https://www.reform-online.jp/news/reform-shop/12738.php
調査内容
買い主にとって気になるのが、インスペクションの調査内容。これまで民間企業が行ってきた調査では、調査する項目や報告の仕方にはばらつきがあった。
このような状況をふまえ、国土交通省では2013年に「既存住宅インスペクション・ガイドライン」をとりまとめ、インスペクションの基本的な内容を示した。今回の法改正でも、この時定められたものがベースとなっている。
現況検査の内容は、売買の対象となる住宅について、基礎、外壁等の住宅の部位毎に生じているひび割れ、欠損といった劣化事象及び不具合事象(以下「劣化事象等」という。)の状況を、目視を中心とした非破壊調査により把握し、その調査・検査結果を依頼主に対し報告することである。現況検査には次の内容を含むことを要しない。
①劣化事象等が建物の構造的な欠陥によるものか否か、欠陥とした場合の要因が何かといった瑕疵の有無を判定すること
②耐震性や省エネ性等の住宅にかかる個別の性能項目について当該住宅が保有する性能の程度を判定すること
③現行建築基準関係規定への違反の有無を判定すること
④設計図書との照合を行うこと
(出典)
国土交通省・「既存住宅インスペクション・ガイドライン」の策定について
http://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_000464.html
このように、基礎や外壁の欠損・劣化について、主に「目視」による調査がメーン。耐震性などの住宅性能を検査したり、設計図面通り建築されているか、といった調査は必ずしも行う必要はないと定められている。
調査資格者と団体
現場で調査を行うのが、「既存住宅状況調査技術者」の資格を持つ建築士だ。国土交通省が2017年3月から業界団体を通じて講習を開催し、育成を行ってきた。
実際に資格を取得したある事業者は、「状況調査についてはこれまで民間の資格に基づいた基準で行ってきた。しかし、エンドユーザーへの説得力に乏しかったので、今回の国の資格というのは非常に説得力を持つと考える」と話している。
既存住宅現況検査技術者の合格者数と見込み
詳しくは... 「診断」が中古住宅流通を変える
https://www.reform-online.jp/news/reform-shop/12738.php
このように国が定めた資格ができたことで、インスペクションを仕事にしようという建築士が今後増えていきそうだ。今年3月末時点での合格者数は2万4600人も見込まれていおり、調査する側の体制は整っていると言える。
しかし、講習を行う業界団体からは、「技術者のスキルが足りなくて、きちんと報告がなされないようなことが起こってしまうようなこともあり得る」と指摘する声もある。特に欠陥住宅の場合、ビルダーがユーザーに隠して家を引き渡すため、プロでも発見が難しいという。
詳しくは... 全日本ハウスインスペクター協会、インスペクションのプロ育成へ
https://www.reform-online.jp/interview/12739.php
1件あたりの相場は4~6万円︖
新たな制度であるだけに、気になるのがインスペクションに掛かる費用。実はこの価格には、明確な決まりはない。本紙でこれまでインスペクションを行ってきた複数の事業者に聞いたところ、おおむね相場は1件あたり4~6万円という結果となった。しかし診断員が2万人以上もいるだけに、制度開始後に低価格競争が起きる可能性もある。
表︓「既存住宅状況調査」を依頼した場合の価格
詳しくは... 建物診断、値段はいくら?
https://www.reform-online.jp/news/reform-shop/12745.php
宅建業法改正に伴う問題
普及するのか?
法律で義務化されたとは言え、今回の改正には様々な不安がつきまとう。その1つが、そもそも普及するのか、という問題。特に宅建業者からは、仲介の手間や時間が増えるだけで、高く売れたり早く売れるといったメリットが見えないという話も聞かれる。
また検査そのものに対する不安も聞かれる。宅建業者団体の一つ、公益財団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)では、会員に対して「媒介契約の場でしっかり説明すべき」と情報発信しているが、「後々に調査の誤りが発覚した場合、その結果についてどこまで責任を追えばいいのか」といった不安の声が上がっていると語る。
詳しくは... 全宅連、不動産業者の抱える2つの不安
https://www.reform-online.jp/interview/12751.php
調査の信用性の担保
もう一つの問題が、調査結果の信頼性。宅建業者が診断員を斡旋するという「売り主主導」のインスペクションである性質上、売り主にとって不利になる建物の欠陥が見つかれば、宅建業者が診断員に働きかけて、これを隠蔽する可能性がある。
日本ホームインスペクターズ協会 長嶋修会長
このような問題を指摘するのが、2008年に設立され、約1500人のホームインスペクターを抱える日本ホームインスペクターズ協会の長嶋修会長。本紙インタビューでは、「アメリカ同様に先行するオーストラリアでも過去、売り主側の診断で虚偽が記される問題も起こっている。私どもは買い主の立場からインスペクションをすることを王道と考えており、この度の改正宅建業法は全く買い主の立場に立っていない」としている。
詳しくは... 日本ホームインスペクターズ協会、買い主側のインスペクションこそ王道
https://www.reform-online.jp/interview/11924.php
まとめ
このように義務化されたとは言え、様々な面で課題は多い。ただインスペクションの利用は、中古住宅流通を活性化するにはなくてはならないもの。まずはこの制度を知らない一般消費者に知ってもらうことから始めたほうがよさそうだ。
参考及び出典
国土交通省・「宅地建物取引業法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」を閣議決定
http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000143.html
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