最終回 ~風の流れをつくれば室内の快適性は向上する~
縦すべり出し窓の設置で横から吹く風をキャッチ
前回は間取りデザインや部屋の使い方について事例を取り上げました。今回も前回同様にリフォーム例を紹介しますが、中でも窓を使ったリフォーム提案を取り上げます。窓を上手に使うことで、住まいの快適性は大幅に向上するのです。
風入りにくい上げ下げ窓縦すべり出し窓で快適に
窓を変えるだけで、その家の快適性は大きく変わります。例えば子供部屋。子供部屋が2階にある場合、安全性の問題などから、窓を上げ下げ窓にすることがよくあります。この場合、「風の流れ」という観点で考えると風の入りにくい部屋ということができます。なぜなら、風が窓の正面から吹くと部屋の中に入るのですが、横から吹くと素通りしてしまうからです。住宅地では建物と建物の距離が短いため、風は正面から家の壁に当たらず、壁面に沿って流れることが多くなります。上げ下げ窓は壁に沿うように流れる風をつかみにくいのです。
こうした問題を解消するために、縦すべり出し窓を提案します。縦すべり窓に変更することで風の通り道を確保し、室内に新鮮な空気を送り込むことができるのです。正面から吹く風は取り込むことができますし、横から吹く風は外に出た窓に当たり部屋の中に入り込みます。壁面を流れる風をキャッチしやすくなるのです(イメージ1)。
【イメージ1】窓の向きは背中合わせが効果的
ポイントは、2つ並んだ窓を左右で逆の開きにして背中合わせにすること。この場合、左右どちらから風が吹いても風をキャッチすることができます。日本は、風の流れが頻繁に変わる地域も多いですし、昼夜で風の向きが異なることも多いので、いろんな気候条件に対応できるようにしておきます。
風にはプラスの風圧とマイナスの風圧がある
また、風の流れで重要なことは、風にはプラスの風圧とマイナスの風圧があるという点です。プラスの風圧は風を押し込む力で風の入り口がこれに当たります。マイナスの風圧は風を引っ張りだす力で、風の出口になります。2つの組み合わせをつくることで、片方から風が入ると片方から出やすくなり、スムーズな風の通り道を作り出すことができます。また、温かい空気は上に流れる特性を利用する方法もあります。部屋の窓の他に、2階の屋根に窓を取り付けると、暖かい空気は下から上に流れ、風の通り道ができ、スムーズな換気が行われます。こうした工夫で、部屋の中に熱がたまらず、夏の暑い時期でも快適に過ごすことができるのです。
部屋に熱をためず、空気を入れ替える工夫はまだあります。部屋のドアにはドアの下にアンダーカットと呼ばれる隙間があります。これは換気のための隙間ですが、アンダーカットによる換気のみの場合、八畳の部屋が1時間で空気が入れ替わる回数は1.1回に過ぎません。これを風の流れを考え、ドアの上に欄間(らんま)を取り付けると、アンダーカット+肩上部で1時間当たり15回空気を入れ替えることができます(イメージ2)。こうした工夫で、これまでの悩みを解消し、快適に過ごすことができるのです。
ドア上部からの通風で快適な部屋に
部屋のパーテーションは格子調にして風を通す
空気の流れを作ったら、次は、この流れを最大限生かす工夫です。例えば、室内の間仕切りに「スクリーンパーテーション」を導入するのも1つの方法です。日本古来の襖の考え方と同じように、2つの空間を仕切ることができる商品です。格子調にすれば、風の動線を防ぐことがありません。間仕切りの向こうの空間も風の恩恵を受けることができます。また、スクリーンパーテーションを開け放てば2つの空間を1つの大きな空間として利用できますし、風を通すことも可能になります。また、吹抜け空間を利用して、下から上に向かう風の流れをつくることで、熱やニオイが溜まることなく、快適に過ごすことができます。
窓は単に採光のためだけにあるものではありません。風の流れを意識して、窓を適切な位置に設置することで生活は随分快適になります。これからは、いかに快適性を増すかといったことが重要になってきます。窓によって生活が変わることを多くの方に実感していただければと願っています。
YKK AP株式会社
住宅パーツ・工法研究室 山名一郎室長
