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庭の草花を北側に植える日本人の自然観

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庭の草花を北側に植える日本人の自然観

YKKAP 商品企画部住宅パーツ・工法研究室 山名一郎室長
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日本の住まいと「窓」第10回 庭の草花を北側に植える日本人の自然観

「北に植えれば花は家の方を向く」という知恵

 今回お話しするのは、2つのテーマ。和風空間における窓の重要性と歴史。そして、こうした先人の知恵を現代の住まいに生かした事例について取り上げます。今回取り上げるのは共用空間、つまり、リビングやダイニングについてです。先人の知恵を生かすことで、より快適に暮らすことが可能になります。

丸窓に込められた意味角を立てず丸く収める

 住まいは、そこでどういう暮らしをしていくのかを考慮してつくることが大切です。そして望む暮らしを実現するために、窓を上手に使うことが住まいを快適にする重要なポイントでもあります。

 昔の日本の住まいにはそうした工夫がいたる所にされていました。例えば壁には掛け軸窓がありました。掛け軸窓とは、その名の通り掛け軸サイズの窓で、窓の向こうの景色を一幅の絵のような見せ方をするためのもの。先人たちは窓を上手に生かして、外の植栽を部屋の中に取り込む知恵を持っていました。

 さらに先人たちは窓に精神的な意味をも持たせていました。昔の日本の住まいには、丸窓がありましたが、この丸窓が暮らしに落ち着きを与えていました。丸というのは角がありません。「角が立たない」ということで、いさかいが少ない、丸く収めるという意味に通じます。日本の国旗が白地に赤の丸になっているのも、ヨーロッパからみて最初に日が昇る国、つまり「日出る国」という意味に加え、国民がいさかいを起こさずみんなで仲良く暮らす、という象徴的な意味もあるのです。このように日本の住まいにおいて、窓はとても重要な位置を占めていたことが分かります。

日本人の自然観に驚いた幕末のオランダ人たち

 こうした先人たちの知恵や自然観に外国人たちは驚き、絶賛しました。例えば、幕末に長崎の出島から将軍に謁見しに江戸に向かうオランダ人たちは皆日本の住まいを絶賛しています。中でも、一番驚いたのが、花などの植栽を家の北側の窓の向こうに植える習慣でした。ヨーロッパでは、現代と同じように草花は南に植えていました。南側から日差しがさすのですから当然です。しかし、日本のお金持ちの家に行くと北に植えてある。彼らは不思議になり、「なぜわざわざ北側に植えるのですか」と聞いてみたわけです。すると日本人はこう言ったそうです。「花は南側に向けて花を咲かせます。しかし南側に植えてあると、南の部屋からは花の背中を見ることになります。だから北側に植えるのです。そうすれば、花は部屋の方を向いてくれますから」と。

 これを聞いたオランダ人は、「日本人の自然観はすごい。日本人は花が見せる一番美しい姿を見ている」と感動したわけです。このように、日本人は窓や縁側、そしてそこから見える景色をとても大切にしました。

ダイニングと和室を一体化フラット空間で移動スムーズ

 先人たちの知恵はリフォーム提案でも生かすことができます。当社では、パートナー企業とともに、家族構成や生活スタイルに合わせたリフォームを提案していますが、こうした提案の中にも先人の知恵を盛り込んでいます。

窓辺の台は書斎と椅子の1台2役

窓辺の台は書斎と椅子の1台2役

 本文右側のイメージ画像は、そのリフォーム事例ですが、ここでは、子どもがある程度大きくなった50代夫婦を想定しています。子どもも大きいので、親子それぞれが適度な距離を保ちながら同じ空間で過ごせるように、ダイニングと和室を1つの大きな空間として構成しています。これは襖を外すことで、1つの大きな空間となる和室のアイデアを生かしたものです。

 和室はフラットでくつろげるようになっており、窓辺からはやわらかな日差しが入り込み、植栽が顔をのぞかせることで癒しの効果もあります。窓辺の台に物を置いたり、何か読み書きをしたりしてもいいですし、窓を眺めながら座ってもよいつくりになっており、縁側のような役目も果たします。日差しが強すぎる時は障子を閉めれば、ほどよい明るさを採り入れることができます。

 また、近年は家族の生活スタイルが多様化し、食事時間がばらばらになりがちです。このような部屋であれば、食事を済ませた子どもは和室でくつろぎつつ、後から帰ってきた父親がダイニングで食事、といった具合に程よい距離感で、互いがしたいことをしながら会話をすることができます。別々にくつろぐことも、集まることもできるのです。

 日本古来の知恵を生かしつつ、現代の生活環境に適した住まいづくりを行うことは、これからもますます大切になってくると考えています。

YKKAP 商品企画部住宅パーツ・工法研究室 山名一郎室長

YKK AP株式会社
商品企画部住宅パーツ・工法研究室 山名一郎室長

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