第8回 ~窓があると、生産性・効率性がUPする~
"窓の重心"を理解することでより快適な空間づくりが可能
今回は住まい空間の中での「窓の意味」がテーマ。そこに住む人に合わせた窓の設置の仕方で快適性や知的生産性が大きく変わってきます。窓はとても重要な存在なのです。
建築学会でも発表された"机の前に窓を置く"効果
住まいにとって窓がとても重要な存在であることはこれまで述べて来ました。では、住まいに窓があることでどういう効果があるのでしょうか。実は、部屋に窓があることは中にいる人間の知的生産性を高めるといわれています。
これは実際に建築学会で発表された話ですが、被験者に部屋でさまざまな頭を使う作業をやってもらったところ、机の前に窓を置いた場合では、頭を使う労働になればなるほど効率が上がったそうです。加えて、窓に植栽を置いたところさらに能率が上がり、横の壁に好きな絵を置くともっと良い結果が出たそうです。このように、窓は住まいやそこに暮らす人にとって重要で大きな影響をもつ存在なのです。
2人の子供用の部屋は完全な間仕切りはダメ
こうした窓の重要性を認識し、部屋ごとに誰が住むか、どう使うかを考慮した上で、上手に窓を生かした部屋づくりをすることが大切です。
例えば子供部屋。仮に2人のお子様がいらっしゃるとして、まず子供部屋を1つの大空間として使えるようにしておいて、いずれは2つに分けるようにするといったことをされるお家も多いと思います。その場合も、窓をしっかりつくっておく。先ず家具を置いて、配置を決めてから邪魔にならない位置に窓の配置を考えるわけです。ただこの場合、完全に2つに分離する孤独な空間をつくるのではなく、相手の存在が分かる程度の間仕切りにしておくことが大切です。なぜなら、完全に分けるとわがままに育つからです。
昔の江戸時代の長屋は、壁が薄く隣の息遣いも聞こえる状態でした。落語の中にこういう噺があります。とある住人が服を掛けるために壁に長い釘を打ちました。すると、壁が薄いものだから、それが突き抜けて隣の部屋に出てしまったのです。「しまった」と思ったのもつかの間、壁の向こうから「ありがとう。うちもここにかけるよ」と聞こえてきたそうです。それほど薄い壁でした。
当時は、隣の声が聞こえないと、「病気かな?」と心配になり、壁をドンドン叩いて、「元気かい?」と声がけをしたりしていました。プライバシーも何もあったものではないとお考えになるかもしれませんが、そのかわり、隣の人の気配を感じる生活をすることで、大きな音をださないように等、皆周囲に配慮して暮らしていました。
これは子どもに相手への配慮の気持ちを育む上でも重要なポイントです。子ども部屋も完全に仕切らず、ある程度相手のこと意識しながら住むような環境にしておくのです。さらに、机はあらかじめ窓際に置いておき、窓から外が見えるようにします。そしてその向こう側に植栽が見えるようにしておく。勉強の能率が上がるからです。そして、知らず知らずのうちにここが一番落ち着く部屋になっていることでしょう。
寝室は北側に作るのが基本光の重心低く落ち着いた空間に
次に寝室です。寝室は同じ部屋の中を落ち着きの空間と頭を使う空間に分けていく構成です。それには窓の使い分けが大切です。高窓にすることで窓を通して外が見えるようにします。明るく日差しが入ると落ち着かないので寝室は北側に造ります。北側の部屋は南の部屋の光の入る量と比べ3分の1といわれます。
光の重心次第で印象は大きく変わる
当社では、「光の重心」という言葉をよく使っています。窓から入ってくる光が天井付近までも明るくする場合を「ひかりの重心が高い」、部屋の床面近くを主に明るくする場合を「ひかりの重心が低い」と言っています。寝室は光の重心を低くすることでぐっと落ち着いた空間になります。
このように窓の持つ"力"を理解することでそこを使う人にピッタリとフィットした部屋をつくることができるのです。
YKK AP株式会社
住宅パーツ・工法研究室 主席研究員 白瀬哲夫 室長
